福蛇

崔仁鶴『朝鮮伝説集』原文

梁允済は平安北道煕川郡邑内面加羅之洞の生まれで、およそ百五十年前の人である。家は門閥をもって近隣に知れわたっていたが、ひどく貧窮な生活ぶりであった。

ある年凶荒に会い、朝夕の糊口にも困ったが、食わずにはいられないから隣村の蘆座首の宅に行って「米でも粟でもよろしいから当利で借りたいがどうでしょう」と願った。座首は「何も貸すの借りるのということはない」といって、召使いに命じて庭に積んである稗を一背負だけ与えた。梁允済は大変感謝して帰った。梁允済は何か背中でゴツゴツ音がするので、途中で下ろして見ると、蛇が一匹その中にいた。「これは嬉しい。これは福蛇に違いない」と、大事にして元のとおりに包んで家に帰った。そして蛇の居所を作り、月々吉日を定めてお祭りをした。

それから梁允済はしだいに富み栄え、一郡の第一の長者になった。それにひきかえ蘆座首の家はいつのまにか衰えていき、ついにその日の暮しにも困る程になった。

梁允済は男の子、女の子も多く幸福の日を送った。天寿を全うしたとき、蛇が家のまわりをまわったがはなはだ元気がなかった。それを見て梁允済の子らは「主人が死んで、お前も不安に思うだろう。これからは、われら兄弟姉妹の家でお前と気の合った家へ行け」と言った。すると間もなく、雲山郡に嫁いだ第三女の家に移った。その家ではまた大層喜んで、前と同じように場所を定めてお祭りもしたので、だんだん栄え、今もその子孫は雲山郡の巨富となっている。

三輪環『伝説の朝鮮』一八〇ー八二 博文館 一九一九年

崔仁鶴『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より