仙女と九竜の後裔

北朝鮮:咸鏡道西湖津・花島

咸鏡道西湖津の沖に花の咲き乱れる花島(ファド)という美しい島がある。天帝が天地開闢の時に造ったが、あまりにも美しく出来たので天帝自身が驚いたという。そして、天帝の娘の仙女もこの島の美しさが気に入り、ある時一人で馬車に乗ってこの島に訪れた。そしてこの花畑に遊び海で泳ぐ仙女を竜王の王子である九竜が見ていた。九竜は仙女に一目ぼれし、畏れ多いと怒る竜王をも説き伏せて、仙女に近づいた。驚いた仙女も九竜の容貌に惹かれ、二人は結ばれることとなった。幾年かのうちに二人には男女の子も生まれ、皆で幸せに島で暮らしていた。

ところが、意地の悪い地神が二人の仲を嫉みはじめ、九竜を殺して仙女を自分のものとしようとした。そして島一面に茨を植えて育て、美しい花を全く咲かなくさせてしまった。虫たち小鳥たちも姿を消し、薪を取りに出ていた九竜も茨に刺され血だらけになり、その毒で瀕死となってしまった。

仙女がうろたえる横で、九竜は子どもたちのことを託しながら死んでしまった。地神は大喜びで仙女を我が物にしようと島に舟で迫ったが、ここに仙女の父である天帝の怒りが落ち、地神は海の藻屑と消えてしまった。その後、天帝は仙女にひとり天に戻るようにいい、島には子どもだけが残った。

これより、この天女と九竜の子孫である人々の村が島にはできていった。だから、この島には美男美女が多いのだという。

朴 栄濬『韓国の民話と伝説1』(韓国文化図書出版社)より要約


花島に暮らしてきた人々の祖を語った伝説で、神話のようでもある。韓国朝鮮の「九竜」というのはまた「九匹の竜」の意味でも使われるが、この話では九竜という名の一人の男ということだろう。その竜王の息子が天帝の娘と結ばれるというのだからかなり贅沢な話であるといえる。が、今はその話の内容そのものはさて置き、以下に見る伝説(神話)との類似という点であげておきたい。

星おとこと月おんな
韓国:慶尚南道河東・金島山:脇に金の鱗をもつ星おとこが、仲良く暮らす月おんなへの横恋慕に狂った地神に害される。

この「星男・月女」を「九竜・仙女」と置き換えて大筋では違わない話の進行となる。この二つの伝説(神話か?)がもし本当に同根のものであるならば、星男は竜王の王子九竜と置換可能な存在であった、ということになる。

もっとも、まだまだ朝鮮半島の民話を数多く見聞した、というにはほど遠い段階なので、もしかしたら、地神はあちこちでやきもちを焼いて邪法を使いまくってあれこれの女神に迫りまくっている(のでよく似た話がたんとある)、という可能性もあるが。

それにしても、この地神は本邦の弁天さんに迫る道祖神さんに近しいものがある。あるいはアテーナーを追うヘーパイストスを彷彿とさせる、ともいえる。