星おとこと月おんな

韓国:慶尚南道河東・金島山

昔、ある洞穴に力強い星男とたぐいまれな美人である月女が仲睦まじく暮らしていた。星男の脇の下には金のうろこがはえており、そこから無限に力が湧き出しているのだった。二人は片時も離れずに、山に登り野を歩き、愛を誓い合っていた。ところが、地底に住む地神が月女に横恋慕をし、星男を亡き者にせんと邪悪な企みを巡らせた。地神は疫病神に力を請い、その邪法を教わると、千日かけて星男を呪い、その力の源であるうろこを落としてしまった。月女は俄かに崩れ落ちた星男に動転し、抱きとめたが、星男はすでに瀕死であった。

弱り果てた星男にとどめを刺そうと地神はおろちの姿となって襲いかかった。そこへ以前から地神と仲の悪かった山神が虎を差し向け、おろちと虎の戦いが始まった。それはいつ果てるともなく三年の長きにわたる戦いとなったが、ついには虎が敗れ死んでしまった。ついには星男も力尽きて死んでしまい、邪魔者のなくなった地神は月女を手に入れ思いを遂げようとした。しかし、月女は汚らわしい地神などと連れ添うくらいなら花となり星さまをとむらう、と言い放ち、あっという間に紅のつつじの花に変わってしまった。

慶尚南道河東に、金島山という山があり、この物語の洞穴はその中腹にある。今は「星月洞窟(ピョルダルトングル)」と呼ばれていて、春になるとその内外に赤いつつじが一面に咲き乱れるという。

朴 栄濬『韓国の民話と伝説1』(韓国文化図書出版社)より要約


この星男と月女が天体の星と月そのものをいっているのかどうかよくわからないのだが(そうなら月はなくなっているはずだ)、深く関係する存在ではあるのだろう。で、脇の下に鱗があるというのは本邦でも竜蛇を祖とする一族にまれに生まれる存在ということでよく知られるが、これは韓国朝鮮でも同じ。

高麗(こうらい)王家にこの神話があったが、それ以外にも民話上で竜蛇を祖とする豪傑の脇の下に鱗があって、という話がよくある。その鱗が弱点で、それを失ってしまうと力を失ってしまう、死んでしまう、というのも定番のモチーフだ。そして、ここでは星男がこれに同様する存在だというのである。

これはもう星男は何らかの形で竜蛇にまつわる存在だといっているとしか考えられない。それがすぐさま天空の星と竜蛇に密接な関係を見ていた、といえるかどうかは分らないが、極めて重要な事例であることは間違いないだろう。

実は、さらにこれを補強するかもしれない伝説がまた別に見えるのだ。先の話が半島南端を舞台とし、次の話は北朝鮮になる半島北東部が舞台とかなり離れるが、話の骨子がよく似ている、そちらは竜王の子が主役となる伝説である。

仙女と九竜の後裔
北朝鮮:咸鏡道西湖津・花島:天帝の娘と竜王の王子・九竜が結ばれるが、嫉妬した地神が九竜を害した。