龍泉

崔仁鶴『朝鮮伝説集』原文

慶尚北道安東郡臥龍面中佳邱洞の前の山麓に、龍頭に似た井戸がある。昔、この村で一人の若者が母と二人で暮していた。若者は結婚した。しかし、貧乏生活は免がれることができなかった。妻は男の子を生んだ。ある日、夢に山神霊が現われ、「坊やはとても可愛らしいが命が短い。山麓の下に数千年を経た蛇がいて赤を喰うと昇天するから、もしこの子をいけにえにすれば、あなたの家はただちに長者になり、なお三ヵ月後にさらに男の子を産むであろう」といい姿を消した。

彼女は山神霊の話を信じ夫に相談した。夫婦はとても捨てることは出来ないと思ったが、やむをえず、例の山麓に持って行って子供を置いた。するとその晩、急ににわか雨が降りだし、稲妻と雷が伴い、間もなく大きな龍が現われて昇天するのであった。あまりにも大雨だったので、川が氾濫した。ちょうどこのとき山が崩れるような音がするので、びっくりして見ると、家の前へ数百石の米俵が流れてきた。彼はその米俵を拾いあげ長者になった。

龍が昇天したその場所に、龍頭に似た井戸ができた。今もこの井戸の水を飲むと男の子を生めるといわれている。

柳 増善採集 一九六六年八月
羅 七成(男五七)慶尚北道安東市臥龍面中佳邱洞

崔仁鶴『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より