五竜の墓地と五蛇の墓地

朴 栄濬『韓国の民話と伝説1』原文

むかし、京畿道楊平に、老いたひとりの男がいた。
「わしもうまく世間を泳ぎまわって、かなりの財を得た。この身代を、子孫たちに末ながく保たせたい。五十といえば、わしもそろそろ、棺に片足を突っこんだようなものだ。はてさて、どうしたものだろう」
思案のすえ、さっそく、知名の地相師を招いて、あたりの山野をしらべはじめた。すぐれた地相に墓地をつくれば、子孫が栄える、ときいたからである。

都合よく、五竜が臥した格好の地形で、家門の栄えうけあいという、すぐれたところを、村近くの山で見つけた。
さっそく家族たちと相談のうえ、祖父の墓をうつすことにした。ところが、いよいよ墓を移そうとでかけてみると、そこには、いつのまにか、ちゃんと立派な墓ができていた。
カンカンに怒って、いろいろ調べてみると、人もあろうに横領したのは、嫁いだ自分の娘であった。
「實に怪しからぬやつ。このような大それたことを、平然とやってのけるとは、もう許してはおけぬ。今日からはおれの娘でもなんでもない」
大声で、娘を罵ったが、今更どうにも仕方がない。

あらためて、地相師に選ばせたのが、五竜の墓地の真向かいにある山の頂であった。ここは竜ではなく、ただの蛇が五匹、とぐろを巻いた地相にすぎなかった。地相の優劣は段ちがいであったが、そこは金の力にものいわせ、移葬の儀式は盛大を極めた。
はなやかに着かざった百人の童子を、墓所にずらりと並べ、右手には百目ろうそくをもたせ、左手にはじゃ香を捧げさせた。墓前には、山と積んだ山海の珍味が、ところ狭しと供えられていた。能楽に心得のある村の衆は、のこらず駆り出され、賑やかに楽の音が奏でられると、踊り子たちが美しく舞った。
向かいの山でそれを眺めていた五竜は、腹を立てた。五つの竜が臥せているという飛び切り上等のこの地相には、見るからに貧相な夫婦が、手ぶらで詣で、わずか三拝の礼をしただけであった。それにひきかえ、たかが五匹の蛇の墓は、なんとはなやかなことか……。

五竜はただちに打ち合わせをはじめた。そして、臥していた今までの山を捨てることに決め、向かいの山の蛇どもに襲いかかった。竜と蛇では喧嘩にならない。蛇どもは恐れをなして、ほうほうのていで、這うように逃げ出し、五竜が捨てた向かいの山に隠れてしまった。
こうなると、あとはいわずもがなである。あらたに五竜を迎えた墓の主人は、日ましに栄え、子孫代々富貴をほしいままにしたという。
一方、娘夫婦は五竜に見捨てられ、せっかくの思惑もはずれて、相も変わらぬ貧乏ぐらしのうちに生涯を終えたということである。

(京畿道楊平郡)

朴 栄濬『韓国の民話と伝説1』(韓国文化図書出版社)より