五竜の墓地と五蛇の墓地

韓国:京畿道楊平郡

昔、京畿道楊平に、老いたひとりの男がいた。生涯を通して財を成したので、これを長く子孫に保たせたいと思い、地相師を招いて、子孫が栄えるような土地を探し、墓地を構えたいと相談した。すると、近くの山に五竜が臥した格好の最良の地相を見つけることができた。

ところが、いざ墓を造ろうとしてみると、すでにその山頂には墓が造られており、嫁に行った自分の娘が話を聞き、横取りしたのだということが知れた。男は激怒して娘と縁を切ったが、とられた土地はもう仕方がなく、やむなく対面にあった五蛇がとぐろ巻く地相の土地に墓地を構えることにした。五蛇の地は五竜の地よりはるかに劣った地相だったが、男は財力にものを言わせて盛大な移葬の儀式を行った。

すると、今度は五竜の地の竜たちが腹を立てた。向かいの五蛇の地があれほど盛大に祀られているのに、格上の自分たちの地は貧相な夫婦が三拝の礼に来ただけである。竜たちは臥していた今までの山を捨てることにきめ、向かいの山の蛇どもに襲いかかった。蛇たちは竜に敵うはずもないと恐れをなして、ほうほうの体で、五竜の捨てた山の方へと移り隠れてしまった。

あとはいわずもがなであり、新たに五竜を迎えた墓の主人は、日ましに栄え、子孫代々富貴をほしいままにした一方、娘夫婦は五竜に見捨てられ、相も変わらぬ貧乏暮らしのうちに生涯を終えたということである。

朴 栄濬『韓国の民話と伝説1』(韓国文化図書出版社))より要約


日本にも風水思想はあったのだけれど、民話上でその理が前面に出てくるようなケースは少ない。竜蛇に関しても、その違いが風水的な地相の説明になっていたり、というものはあまり見ない。強いて言えばそうかもしれない、と思えるものもある、というくらいだ。しかし、それが日常的によく浸透していた韓国朝鮮の方では、この点実にはっきり風水の理で竜と蛇を分けて対比・対抗させて語る話が見えてくる。

単に父娘の地相のとりあいの話かと思いきや、後段実際竜が蛇どもに襲いかかるという話だ。風水が日常に浸透している文化ではこのくらいあからさまな話が出来てくる。竜と蛇という存在が、このような対比をもって語られている、というところが面白い。韓国朝鮮でも同じ話が竜として語られたり大蛇として語られたりといった混同している(というより大差を感じていない)面が大きいのだが、こと風水がらみの話となると俄然はっきり別という扱いになるようだ。別というか、それは連続性をもつものであって、故に対比されることにもなる。

そして、この連続しているが別、ということはもしかしたら怪蛇の名称そのものにも表れているかもしれない。ハングルでは日本語にすると「うわばみ」となる名称を「イムギ(이무기)」というが、この名を覚えておきたい。

広静堂のイムギ(大蟒)
韓国:済州島大静山房:祠に祀られるイムギが牧使を襲った。牧使はうわばみを斬り殺し、島の多くの祠寺を壊した。