大蛇を退治した与一

『伊予三島市史 上巻』原文

昔与一、与成の兄弟があり、二人とも狩りの名人でした。

ある日二人は朝早くから川滝町の呉石山に行って見ました。すると頂上の方から家にしか無いはずの「立臼」が下に向かってころころ転がってくるのでした。
弟の与成は兄の与一に向かって「あれはどうしたことでしょう」と言いますと、兄の与一はにこにこ笑いながら、「ばかばかしいことだ。物が下から上に向かって転がるのならともかく、上から下に向かって転がることは当たり前のことだよ」と大きな声で笑いました。

すると今まで下に向かって転がっていた立臼が上に向かって動き始めたので、与一は「なんだ、教えてもらってするのならだれにでも出来ることで、ばかな化け方だよ」と言ってけらけら笑いました。
すると立臼は急に姿を消して、大きな鹿が姿を現して与成の方に近寄って来るのでした。
与成と与一は矢を口にくわえ、ひょうと矢を放つと見事命中して鹿は倒れましたが、その鹿は正体を現して大蛇の姿になって死んでいました。

ところが与一もまたその大蛇の毒気にふれて死んでしまいました。里人たちは恐ろしい大蛇を退治してくれた与一を有り難く思って、立派な塚を築いて葬り、与一権現さまと呼び、毎年三月二十一日に盛大なお祭りをするようになりました。その墓は宇摩郡新宮村上山にあります。

『伊予三島市史 上巻』より