蛇の夢

『上下町史 民俗編』原文

主人(中川強)が招集されて行ったのが、昭和十二年ですけえ、十三年じゃったか──。そのころ、タバコを一反(一〇アール)から作りょうたんです、子どもを連れて。タバコを作りょうたが銭に困るんです。父親も六〇なんぼうで、母親は中風で半身不随でなんにもできん。お婆さんは八四、五で、仕事をするのは私一人で、一生懸命やりょうた。

ある晩のこと、タバコをのしようたら(タバコの葉のしわのばしをしていたら)タバコを(乾燥させるのに)吊った木の上を、ものすごい大きな蛇が、ずうーっと、タバコをのしとる私の方にめがけてくる。恐しゅうて恐しゅうていけんので逃げりゃあ、逃げる方へ蛇がくる。

それで目が覚めたんです、夢を見とった。

こりゃあ主人が戦死したいうてくるんじゃあないか、どうしたんじゃろうか、蛇の夢を見りゃあえいうけえとも思うて、朝ま、年寄りに話したら、
「強が金でも送るんじゃあなかろうか」
いうて言うた。

ほんに、その日に、当時一〇円送ってきてくれたんですぞ。やっぱり蛇の夢は銭を送るいうが、確かにあたりました。それが助かったんですよ。当時の一〇円といえば大金です。(小塚 中川高江)

『上下町史 民俗資料編』より