星になった赤ん坊

未来社『日本の民話14 大阪・兵庫篇』原文

むかし、あるところに老人の夫婦が住んでいました。この老夫婦には、子供がありませんでしたので、毎日さびしく暮らしておりました。そして、いつもあちらこちらの神さまに、
「私どもに子供をさずけて下さい」
とお願いをしておりましたが、いっこうに子供はさずかりませんでした。
ある年の、空はきれいに晴れて天の川がはっきりと見える七夕の晩でした。
「今宵は、雨が降りませんように。天の川の水かさがましませんように」と祈りながら、空を眺めていたふたりは、天の川の絹屋の織姫さんに、
「さびしい私たちにどうか子供をさずけて下さい」
と一生懸命頼みました。
翌朝、おばあさんが目をさますと、庭のほうで、
「おぎゃあー、おぎゃあー」
と赤ん坊の泣き声がします。びっくりしたおばあさんは、
「おじいさん、おじいさん、赤ん坊の泣き声がしますよ」
とおじいさんを起しました。そして急いで戸をあけてみると、庭の桑の木のところで、女の赤ん坊が泣いていました。ふたりはよろこびました。

「これは、きっと織姫さんが私たちに下さったのにちがいない」
と大事に育てることにしました。赤ん坊はすくすくと大きくなり、うつくしい女の子になりました。
今まで、さびしく暮らしていた老夫婦はうつくしい女の子を可愛がり、毎日しあわせに暮らしていました。
ところが、この女の子が八歳になったとき、ぽっくり死んでしまいました。
「せっかくここまで育ててきたのに、かわいそうなことをした」
とふたりは、なげき悲しみました。

そこで、ふたりは女の子のなきがらを桑の木の下に埋めてもらいました。そして、ふと桑の木をみると、一匹の青虫がおりました。
「この虫は、きっとあの子の身がわりにちがいない」
と今度は、ふたりでこの虫を大事に育てることにしました。そして、毎日いろいろな食物をあたえましたが、青虫は桑の葉以外何もたべませんでした。
秋がきました。この虫は、ずいぶんと大きくなり、まるまると肥ってきて、立派なまゆを作りました。このまゆは金色に輝き、今までにふたりがみたことのないようなきれいなまゆでした。
しかしよく晴れた秋の夜、きれいなまゆはいつの間にかなくなってしまいました。
「あのまゆは、どうしたんだろう」
とふたりはあちらこちらと探しまわりましたが、どうしても見当りません。そして、桑の木のまゆのあったところをみますと、その方角の空に、大きな金星が光っていました。
「あの虫が、空の織姫さんのところへ帰って、あの星になったのだろう」
とふたりは話しあいました。
そして、ふたりは夜になるとキラキラ光っている金星を眺めては、かわいかった赤ん坊をしのんで暮らしました。
採集 桑原昭二

未来社『日本の民話14 大阪・兵庫篇』より