雄島の神の悪魚退治

『日本伝説大系6』原文

昔、モックリコックリが大きな魚になって、雄島さんをやっつけてやろうと思って来て九分通り沈めた。雄島さんは、雄島の竹をとって矢としてモックリコックリを射た。射て射抜いたのでとうとう雄島に一本の竹もないようになった。困っていると、その時、お宮の前にかぶら矢が一本降ってきたので、それを拾って射ると、一本の矢が千本に分かれてモックリコックリに当った。(あるいはいう、一本の矢が四十二本に分かれて魚の両眼を打抜いたと)

モックリコックリが死ぬと九分通り沈んだ島がまた浮き上がった。それはちょうど大年の晩のことであったので、翌日の元旦にはモックリコックリの死骸が北側の浜のアカハシに上がったという。アカハシの石が今でも赤いのはその時モックリコックリの血に染まったのである。村の人々はこの魚を食べようといって臓物までも食ったので、それから正月には雑煮を食べるようになったという。モックリコックリは余り大きな魚だったので、食べても食べてもなくならず、とうとう次の年の正月まであった。正月に魚を造って次の年までとっておくのはこのことがあってからであるという。あるいはいう。その頃、安島にも雄島にも竹が生えていなかったので、雄島さんがモックリコックリに射る矢竹がなくて困っていられた。すると一夜の中に雄島に竹が生えた。それで今でも安島には竹が生えないが、雄島には生えるのであると。

昔、伝教大師が丹波にいられた時、山の仙人から十ヶ年の約束で山を借りた。この仙人というのがモックリコックリである。十年の年月が経って約束の通り山を返さねばならなくなった時、伝教大師は何とか返さずにおく工夫がないものかと亀に相談した。亀は、
「それは何でもない。十の字の上へチョボンを一つ書くと千の字になる」と教えてくれた。大師は早速十の字を千に直した。約束の日になると、
「さて十年になるが、一度書類を改めてみよう」と言って、書類箱を開けて見ると、十の字が千の字になっているので、モックリコックリは開いた口がふさがらず、山を取られて行く所がないので仕方なく雄島へやってきたのである。(『福井県の伝説』)

みずうみ書房『日本伝説大系6』より