おとせと大蛇

『黒部市史 歴史民俗編』原文

むかし、荻生中村の徳左衛門に「おとせ」(お竹ともいわれている)というきれいな娘がいた。このおとせが、三月十八日に行われた明日(あけび)の開帳参りに行った帰り、愛本橋のたもとで紙に包んだ手拭ひとわ拾うた。その手拭のちらしは大蛇の愛恋をかいたものだったので、珍しく思って家に持ち帰り、親にも見せた。二、三日すると、若い侍が旅装束でぶらりぶらりと荻生に来て、「中村の徳左衛門の家はどこか」と子どもらに尋ねた。

あの家だと教えてもらったその晩、徳左衛門の娘が寝ている部屋の窓から「おとせさん、おとせさん」と呼ぶ声がするので、おとせが窓からのぞいて見ると、「縁のない人には見えない手拭を、あなたが拾うてくだされた。その手拭は、わたしの落とした手拭じゃ。それは雨にあってもぬれない、風が吹いても飛んでいかない、これを拾った人は、わたしの妻になることになっておる。さあ、いくまいけ」と、おとせの手を引いて誘い出し、愛本橋のたもとまでいってしまった。

愛本の川の淵まで来ると、「あの水の中に、わたしの住みかがある。一生食べるもの、着るものに困らせん」と言った。それから二、三日して、おとせは大蛇のもとへ嫁入りした。

その後、おとせは、だれにも見られないようにして大蛇の子をたくさん産んだという。この話が盆踊り唄になっている。

『黒部市史 歴史民俗編』より