大谷鉱泉の起こり

富山県魚津市大海寺新

上野方の大谷鉱泉の起こりについては、つぎのように伝えられている。

むかし、百姓が田を打ち起こしていて、誤って白い蛇を鍬の刃先で切った。あっと思ったとたん、田のなかから水が湧き出て、その水が傷ついた白蛇にかかると、蛇の傷がみるみるうちに直り、もとの体になって草むらに姿を消した。それで、この水が傷によくきくというので、お湯屋を開いたということである。

『魚津市史 下巻』より原文


短いが、蛇が温泉(鉱泉)を湧かせ、それで再生するという、実に貴重な話だ。しかし、残念ながらこの大谷温泉はすでに閉じてしまっているという。

ともかく、大けがを負った蛇が再生している。蛇は脱皮によって再生し不死であるというイメージがあったが、転じてそもそも死んでも生き返ってしまう存在だというところがままある。

蛇ざんまい
福井県鯖江市東清水町:「蛇ざんまい」という殺した蛇を捨てる場があったが、捨てられた蛇は蘇生していなくなったものだという。

そしてこのことは、若水(変若水・おちみず)の伝承・行事や、不老の泉の話などと密接に関係するはずなのだが、意外とダイレクトに竜蛇とそういった泉を結ぶ話というのは多くない。

それが「鉱泉」という存在を通じて繋がっている話でもあり、しかも、蛇そのものがその鉱泉を湧かせているのだ。これはなおのこと興味深い事例と言えるだろう。数少ないながら温泉・鉱泉と関係する竜蛇の話というのもあり、以下などと比べ見ておかれたい。

乙女湯
山梨県富士吉田市下吉田:滝の主に見初められた娘が、家へのわびに絶えぬ鉱泉を湧かせる。