蛇崩れの玉

『出雲崎町史 民俗文化財編』原文

勝見のがけがものすごい音をたてて崩れた。崩れてそれが海の中に落ち、そしてがけの中に長いこと住んでいた大蛇が海に入ったという。

村に五左衛門という年寄りがいて、ある日のこと浜に出てみると、はるか沖の方に光るものがある。五左衛門はふしぎに思った。もし海の主となった蛇の放つ光ではあるまいかとも考えてみた。しかもそれが毎晩のことである。

五左衛門は村の若い元気のよい者四、五人を頼んで舟を出し、海の底をさぐってみた。すると鏡のような光を放つものがある。何物だろうと、恐る恐る近よって見ると、それは一つの白い石であった。若者がそれを手にして船に上がった。

陸へ上がっても石の光にはなんら変わりがなかった。世にもまれなものを得たと五左衛門は喜び勇んだ。夜になると、五左衛門の家は月のごとく輝き、まばゆさは目がくらむほどであったという。

そのことが、やがて地頭の耳に入り、是非と所望された。泣く子と地頭には勝てぬのが当時の世の中、仕方なしに宝の石を使いの者に渡した。その後、数年たって地頭はその石を五左衛門に返してきた。そのときには、もう石には光も艶もなかった。この石は大蛇の魂といわれたが、あまり長い間、人間の手元に置いたため、その光を失ったものであろうといわれている。勝見の山崩れのあったところは、今も「蛇崩れ」と呼んでいる。
(『出雲崎のすがた』から)

『出雲崎町史 民俗文化財編』より