蛇崩れの玉

新潟県三島郡出雲崎町勝見

勝見の崖が大崩落を起こし、中に棲んでいた大蛇が海に入った。村の五左衛門という年寄りが、その後浜に出てみると、はるか沖に光るものがある。五左衛門は海のヌシとなった蛇の放つ光ではないかと思った。

村の元気の良い若い衆数人に頼んで、海底を探ってもらうと、鏡のように光る白い石があった。陸に上げても、石の光には変わりがなく、五左衛門は世にも稀なものを得たと喜び勇んだ。五左衛門の家は夜になると月のごとくに光り輝いていたという。

しかし、このことが地頭の耳に入り、宝の石は取り上げられてしまった。その後、数年たって地頭が石を五左衛門に返してきたときには、石の光は失われてしまってたそうな。

この石は大蛇の魂といわれたが、長く人の手元に置かれすぎて、その光を失ったのだろうと言われた。勝見の山崩れのあったところは、今も「蛇崩れ」と呼ばれている。
(『出雲崎のすがた』から)

『出雲崎町史 民俗文化財編』より要約


崖崩れのときに「中に棲んでいた大蛇が」とあるのは、文字通り大蛇が地中から出たということを言っている。このような崩落はまま「蛇走り・蛇抜け・蛇崩れ」などと呼ばれる。

蛇走り山
岩手県大船渡市末崎町:大暴風雨に竹林を背負い走り出した大蛇の話。

ここ勝見では、その抜けた大蛇が光る石を残して行ったというところが特異な展開となっている。「玉」なのではあるが、鏡のように光り輝くという描写から、各地の山中より出る磐座・鏡石とも結びつけて考えたいものだ。

残念なのはその玉が光り輝くというばかりで、それ以外の何らかの神秘を起こしていないところだろうか。海に出た大蛇という点から潮満玉・潮干玉のようなものであったということはないだろうか。