中白清水

『栗源町史』原文

沢から十余三へ行く県道で、栗源町と多古町の境界に「にい堤」と云う所があります。
「にい堤」の両側は狭い田圃になっていますが、ここから出た栗山川の支流が沢と本三倉の境を流れて、苅毛の南側を更に下って田の倉橋の下で合流しています。
「にい堤」の南側の田圃のすみっこに二本の榊の木がありますが、その根本からきれいな清水が湧き出ています。

昭和三〇年頃までは、この榊の木に神社の入口で手を洗ったり、口をすすいだりする水漕にあげてあるものと同じ「手ふき」や「のぼり」と云われている旗などが結びつけられていたそうです。
これは、乳児を持つ若い母親が母乳がたくさんでて、愛児が健康で育つよう祈りをこめて供えたものだそうです。
この「中白(ちゅうしろ)清水」は年中水が絶えることなく湧き出ていることから、母乳の出の悪い母親は、この水でたいたご飯を食べると乳が出るようになると云う伝説があります。

この清水の前に立って、静かに祈り「中白の姉さん、水を下さい」と云うと、清水が「ガボッ」と音をたてて吹き出すそうです。
それは、この清水の奥に子育ての若い女神、つまり水神様が居るからだと云われています。
この伝説はいつ頃から始まったのかわかりませんが、二年程前、沢のある子供がこの清水で、江戸時代の古銭を数枚発見したそうですので、何百年も前のころからあったと云うことがわかります。

この清水の後、つまり西側は小高い山になっていますので、水や山に関する信仰が生れそうな場所です。
近年は人工乳が普及したため、ここを訪れる人は見られないそうです。

『栗源町史』より