中白清水

千葉県香取市内:旧栗源町沢

沢から多古町へ向かう境に「にい堤」という所がある。その南側の田圃の隅に榊の木があり、清水が湧き出ており、手水などの設えもある。これは、乳児を持つ母親が、母乳がたくさん出て、子が健康に育つよう祈りを込めて供えたものだという。

この「中白(ちゅうしろ)清水」の湧水で炊いたご飯を食べると、母乳の出の悪い母親も乳が出るようになる、といわれてきた。また、清水の前に立って「中白の姉さん、水を下さい」というと、清水が音を立てて噴き出したともいう。

それは、清水の奥に子育ての若い女神・水神さまがいるからだといわれている。この伝説がいつごろ始まったものかはわからないが、江戸時代の古銭が発見されもし、その頃には信仰があったものと思われる。

『栗源町史』より要約


この「にい堤」の中白清水は今もある。もっとも、町史の時点で、子安信仰の方はもう見なくなって久しい、という風ではあるが。

さてこの伝で重要なのは「にい堤」の「にい」が藁積などをいう「にう」かどうかという点にある。そして、それが湧水の噴出そのものを指していたとすると、「にう」に関して、藁積である一方で丹生で示される湧水信仰でもあるのはなぜか、という問題に示唆を与える。

つまり、藁積のように盛り上がって湧き出る清水が「にう」ならば繋がるということだ。もし、この栗源の「にい堤の中白清水」にその含意があることが示されると、非常に重要な事例になるだろう。それは一方の凹凸双方を指す「ぼっち」名の問題とも関係してくるはずである。

ところで下総はこのうような盛り上がって湧く水の伝がいろいろあるところでもある。竜蛇といえばの印旛沼にも佐久知穴という湖底から湧き出し水面を盛り上げる湧水があったというが、鎌ヶ谷の方には「蓑笠の形に盛り上がって湧く囃子水」の伝があった。

囃子水
千葉県鎌ヶ谷市道野辺本町:囃子水のそばで囃すと、水が蓑と笠の形に湧き出る。

蓑笠の形といえば藁積に近いといえ、この栗源の話と鎌ヶ谷の話を併せて考えると、「にう」の湧水のイメージにより近くなるといえるだろう。