囃子水

千葉県鎌ヶ谷市道野辺本町

昔、山菜好きの妙蓮寺の住職が雨中蓑笠をまとって山菜採りに行き、足を滑らせて池に落ちて亡くなった。それ以来、この池のそばでお題目を唱えると水が蓑と笠の形に湧くという。また、別の僧侶が落水した時は、遺体が東京湾の浦安沖に浮いたといい、底が繋がっているといわれる。

池のほとりで「笠になれ蓑になれ」と囃し立てると、水が高く湧き出してそのような形をするともいい、故に池は「囃子水」と呼ばれる。近くに田を買ったり、ここの笹を使ったりして障りがあったという家がある。

また、囃子水のあたりを掃除して、回りの草をきれいに燃やしてしまったら、蛇の山が燃える夢知らせにあい、娘がアイロンでやけどをしてしまったという。

『鎌ヶ谷市史 資料編V(民俗)』より要約


周辺すっかり住宅地になってしまっているが、囃子水公園となって現在もこの池はある。果たして竜蛇譚なのかというと微妙なところだが、最後段の「蛇の山が燃える夢」(意味がよく分らないが)という点を見れば本来蛇のヌシの池なのだろう。

ここで重要なのは「蓑と笠」という点だ。これが雨乞いの定番スタイルなのは、雨が降ったらその姿になるからということで、要するに予祝儀礼の装束ということなのだが、吉野裕子などはこのスタイルを「蛇を着るもどき」ではないかと指摘している。

そのテーマそのものは色々な事例をつないでみないと言及できないが(直接蓑を蛇だといっているような信仰はもはやない)、この話は湧水の形が「蓑と笠の形に湧く」という点で、予祝の装束から一歩踏み込んだイメージを語っているといえる。