神様のはなし

『木更津市史』原文

むかし、むかし、貝淵の日枝神社に、ありがたい、ありがたい神様がおられました。
ある時、神様は白馬にのって、外からやってきた敵と戦いました。
そして、その戦いの最中に馬が、突然驚いて飛び上がった拍子に、神様は落馬し葦草の上に落ちてしまいました。
すると、その時運悪く、その葦草の上には、一匹の蝮がいて、神様の眼に食いついてしまいました。
神様はその傷のために長い間苦しみました。そして、神様はとうとう、そのために左の眼が見えなくなってしまいました。

その時、神様は村の人達に向っていいました。
「今後、この地で葦草をつくってはならぬ、白馬を飼ってはならぬぞ」
そして、また、神様は蝮が出ないようにその村の地を封じました。
それ以後、貝渕の村人は一頭の馬も飼わず葦草もつくりませんでした。
そして、その後村内には一匹の蝮の姿を見たものはありませんでした。
他の地からたまたまにこの村に蝮が入ってきても、自然と体の自由がきかなくなって死んでしまいました。

そして、いつのまにかこの話が近郷の村々にも伝わり、やがてこの日枝神社の境内の砂をもらってゆき、その砂を家の周辺にまくと、蝮が一匹も出ないといわれるようになったということです。(中嶋清一編『生活の古典』)

『木更津市史』より