大輪村の牛居淵のいわれ

大関増業『創垂可継』原文

大輪村に牛居淵と言う川の淵あり。往昔、牛居淵に大なる牛住みて夜中に出て其辺の作物をあらすことあり。更に人の目に触れればとく走りて淵に入り、其の早き事飛鳥の如く故、彼の牛を除き得るものなかりしかば、松子権十郎といえる水練、淵に沈み牛に縄を付け引出す。所の者是れを殺さんとせしに、帰一寺の住僧往きて彼の牛をひたすらに貰らい請け、此の淵を去り他へ走るべしと言いしに、牛己に命を助けられ放たる処をや聞きにけん、角をさげ礼をのぶる気色にて其の後川へ飛び込み川下に下り馬止めの「牛が淵」に住いりといいり。牛の居りし淵故に牛居淵(ごいぶち)と唱え其の時より今に至れば十分の一になりしと言い伝う。

大関増業『創垂可継』「封域郷村誌・怪談の部」より