名馬里が渕の蛇

『茨城の民俗18(蛇・竜の民俗特集)』原文

むかし、名馬里(なめり)が渕には大蛇が棲んでいたといわれていた。この渕の近くにいいのん平という場所があって、そこに二、三軒の百姓が住んでいたという。その人達は近くを開墾して田や畑を作っていた。そして何頭かの馬も飼っていた。馬はたいてい放し飼いであったが、どうしたものか名馬里が渕ばかりで遊んでいた。そのうち一頭の馬が、「思いっ子。」という子を妊娠していることが判った。

そのうち月満ちて、子馬が産れた。ところがその子馬は体半分は馬で、半分は蛇であった。頭と前脚は馬だったがあとは蛇という異様な姿であった。それを見た百姓は世間体を恥じて或る晩その馬を名馬里が渕に投げ込んでしまった。

それがあってからその川に大洪水が起きて下の方の田や畑や家が流されてしまったという。人々は、これは名馬里が渕の蛇のたたりだとうわさした。(岩波秀俊「蛇の伝説」)

『茨城の民俗18(蛇・竜の民俗特集)』より