赤松の犬の墓

原文:徳島県海部郡海陽町


あの昔な、あの玉笠さんにゃ墓の谷ちゅうんがあってな、犬の墓がある。ほいだら、その犬の墓が、ほの墓へ犬を連れて行て、参らすと犬が名犬になる、な、ようなるんや。

何年かたってから、狩人はその犬をつれて山奥へ行き、狩をしているうちに日が暮れて、山へ泊まることになりました。家がないから、大木の洞穴にはいって休んでいると、なぜか山犬ほてそれが、その殺生人が赤松の人やったそうや。その人が玉笠にあるととさんていうて、ほの滝があって、明神さん祭ってあって、そこへその殺生人が、野宿して泊まって。ほいて、上の段に犬をつないでおいて、ほいで野宿しておったと。夜中にその犬が鳴いて鳴いて、吠えて吠えてして、ええ、こりゃこの犬が山犬の子じゃって、千匹になったら主(主人)をとるということを、先日、その殺生人が聞いておったので、ほんで、こいつらをどうしても、もうこの、犬千匹余りとっとる。こいつら、わしが命を取るのやわからんという疑念をいだいて、あんまり鳴くもんじゃよって、その、犬をこの脇差で切ったそうじゃ。ほしたところが、その首が舞い上って、上から蛇がその人間を呑もうと思てこうしよるやつを、それを下から犬が、ああ吠えておったのを知らずに殺したんや、な。ほいで後からそこ、ふと見たところが、上から大きな蛇がこう下ってきておると。こりゃまあ、すまんことをした。自分の命を取られるのをこの犬が助けてくれた。まことにこりゃすまんことをした。どうしてもこの犬は赤松まで持っていて、葬らならんということで持って行きよったそうや、その死骸を。ほしたところが山越える墓の谷てところに持っていたところが、あんまりこの犬が重とうて、そこで胴体だけ埋めて、ほいで、首を赤松に持っていて埋めたんやな。(孔版『川上昔話集』)

『日本伝説大系 第十四巻』(みずうみ書房)より

追記