昔南郷の滝山には赤い蛇がたくさんいる所として知られた。一方南郷吉山の奥には二匹の白い蛇がいるといった。これは平家の落人(長田荘司)を源氏が発見して討ったことによると古老はいう。白い蛇は山の神の使いともいうが、珍しい。
また、滝山の松の木を切ると血が出るともよくいわれた。これも、長田荘司の一族が源氏に発見され、悉く自害した屍の一部を葬った場所だからだという。
松崎町の那賀川中流域の南側が南郷。原話のタイトルは「南郷にいた山の神の使い二匹の白い蛇」と長い上に白しか出ていないので、別に題を付けた。長田荘司とは源頼朝の父・義朝を殺害した長田忠致だろうが、平家の落人というか源平合戦では源氏方だったのだが、その後は結局頼朝に追われた人。
その最期はよくわからないそうだが、松崎町には一族が落ち延びてきたという伝説があり、この地で皆死んだのだという話になっている。そういった伝があって、こうした赤い蛇と白い蛇の話が語られたのだ。似たような話は各地にあるだろうが、それらから参照されるだろう。
また、少し気になる件として、同地域に正月の餅付きの禁忌の話があり、餅を搗くと白蛇が出てくる、といっているものがある(「餅と蛇」)。それはいじめ殺された女中の恨みなのだが、あるいはこれも長田氏絡みか、というところもある。