昔、駒ヶ岳に雌雄の大蛇が住んでいた。大蛇が竜となって昇天するには、海に千年、山に千年の修行をする。駒ヶ岳の大蛇は、その修行を終え、いよいよ竜になって昇天しようとしていた。
そして、駒ヶ岳の一角を〝じゃぬけ〟させて、滑川を下り、さらに木曽川を下り、勢いをつけて天に駆け上り、竜になったという。
「蛇」とつく地名は崩壊地名という、土砂災害などの痕跡を示す地名であることも多い。蛇崩れ・蛇抜け・蛇走り……などあり、併せてこのような伝説が語られる。これは各地に類例があり、竜蛇伝説を考える上でも大変重要なものだが、今はその典型例として引けるもの、ということであげた。
少し予告もしておくと、冒頭「雌雄の大蛇」といっていて、後段にその意味がなくなっているが、このあたりはそもそも竜蛇が雌雄で語られるものだったのかもしれない。寝覚の古池の竜は男女と語られ、女竜の方はこの駒ヶ岳の縞池というところに越している。