駒ヶ岳の蛇ぬけ

原文

むかし駒ヶ岳に、雄と雌の二匹の大蛇が、住んでおりました。大蛇が竜となって、昇天するには、海山千年といって、海に千年と山に千年の修行をしなければなりません。

この駒ヶ岳の大蛇は、海に千年住んで修業し、その後にこの駒ヶ岳にきて、千年の修行をすませたのです。

いよいよ、竜になって昇天するために、駒ヶ岳の一角を、〝じゃぬけ〟させて、滑川を下り、さらに木曽川を下り、勢いをつけて天に駆け上り、竜になったそうです。

 

〔註〕

一、上松町の地質図を見たり、地形を見たりすると、この伝説ではないが、今から何千万年も大昔に、駒ヶ岳が崖くずれして、土石流となって滑川を下り、木曽川を一旦せき止め更に、木曽川を流れ下っていることは、事実である。

二、木曽谷は、固い花崗岩の岩盤の上にあるので、地震には強いといわれるが、駒ヶ岳山系は花崗岩が、長年月の間に、風化していて、もろくなっているので、山崩れや蛇ぬけが多いといわれている。南木曽町の三留野・与川・大桑村の長野須原などは、過去に何回もその例がある。

『上松町誌 第二巻 民俗編』より