駒が池の椀貸穴

長野県下伊那郡大鹿村

鹿塩梨原に大池という古池がある。どこにも見る椀貸しの話があるが、結末が変わっている。昔、ここの庄屋が十人前池より椀を借り、ひとつ欠いて九つを返した。ところが、いつもと違って椀は三日経っても沈まず池に浮いていた。そこで、庄屋はこれを引き上げ、家宝にしようと仕舞った。

すると間もなく池があふれ、庄屋の広い田畑を押し流してしまった。それより家も傾いていったという。ところで、その後で池から駒が一匹飛び出し、高く聳える山の頂に走って行ったという。それでその山を駒ケ岳という。

大池には葦が一面に生い茂り、雨が降り続いても水量は増さない。池の底に大きな穴が一つあり、どこまで続いているか分らないそうな。駒はその池から出たので、駒が池ともいう。

岩崎清美『伊那の伝説』
(山村書院・昭8)より要約

梨原とあるが、その北のほうに大池キャンプ場と見え、さらに北に池が見える。確かに、池端には椀貸し伝説の解説があり、話の大池のようだ。ただし、駒に関する記述はなく、駒が池という別名は見えない。

竜馬は言うに及ばず、伝説的な名馬というのも水辺に生まれ育つのが定跡であり、むしろ牛よりも竜宮とのつながりなどは強そうなのだが、馬が椀を貸すというと珍妙な印象となる。なぜだろう、と考えるべきかもしれない。

ちなみに、話の家宝としようとしたという椀は大鹿村歴史民俗資料館「ろくべん館」に寄贈されているという話もある。もしかしたら「実物」を見ることのできる場所かもしれない。