殺された大蛇の祟り

長野県下伊那郡阿南町

豊村の猟師がいつものように山奥で狩りをしていると、俄かに掻き曇って雨が降り出した。樹陰で焚き火をして休んでいると、猟犬が驚いて足の下にもぐりこみ、引き出すと悲しがって逃げ回る。不思議に思いつつも紐をといてやると、一目散に逃げ去った。

間もなく、頭上の樹の上でただならぬ音がし、仰ぐと大蛇が焔のような舌を吐きながら、獲物を覘っていた。猟師は慌てず、予て用意の鉄の弾を込めると、大蛇を撃った。確かな手応えがあったが、百雷の落ちるような音とともに大蛇は谷いっぱいの黒雲に消えていった。

猟師は帰ってもその話をしなかったが、暫くして重い病気になり、蛇が来る、蛇が来ると夢に叫ぶようになった。そしてついに助からぬを悟ってか、峠で殺した蛇が来る、それに命を取られるのだ、と先の出来事を語り、間もなく死んだ。

村中総出でその峠の奥へ登ってみると、鉄の毒に肉が爛れて、骨ばかりとなった大蛇の死骸が谷の間に横たわっていた。その峠を蛇峠と呼んでいる。また、その時の蛇の骨を、難病でも治るといって大切に蔵っている家が今もある。

岩崎清美『伊那の伝説』
(山村書院・昭8)より要約