本牧の茂田井に乙姫様という小祠がある。貞享二年八月のこと、大洪水があり、長さ五~六十間、幅二間の土手が崩れてしまった。その土中より、蛇百五六十匹と、円い鏡が出てきたので、鏡を御神体として黒沢氏が祀ったものだという。
たとえば葬式の禁として、妊婦が立ち会うと、生まれる子に痣ができてしまうなどというのがあり、しかし、帯中に鏡を仕込んでおくとこの難を逃れる、などと全国で言う。すなわち鏡が厄を反射することからそうなるのだろうが、この話にも近いものがあるように見える。
治水に鏡を埋めるという話が多いのかどうか分からないが、流れを反射させる、というならなるほど分からない話でもない。人柱の娘が懐中に鏡を持つ話というのも、あるいは鏡そのものの方に大きな意味があるのかもしれない。また、それが大量の蛇を伴って出ている点にも勿論注目したい。