雲場の大蜘蛛 長野県北佐久郡軽井沢町 雲場池には大蜘蛛が住んでいた。ある時旅人が池の畔の柳の木の陰にまどろんだが、ふと気がつくと、美女がきて旅人の体に糸を掛け、池に入ってはまた出て糸を掛けること数回だった。 旅人は大変驚いて糸を柳の木に結びかえると、美女は知らずに糸を掛け続け、さすがの大柳も根から抜け池の中へ入ってしまった。旅人は恐れ逃げたが、以来、池の中には柳の枯れ木があるという。 『限定復刻版 佐久口碑伝説集 北佐久篇』（佐久教育会）より要約 雲場池といえば軽井沢の名所。巨人の足跡伝説の池でもある（池ができたのはそう古くはないらしいが）。最後の段を見るに、箱根芦ノ湖のけけら木のような湖底木があるのかもしれない。地殻変動の故、ではないだろうが。 蜘蛛ヶ淵の蜘蛛といえば女郎蜘蛛、ということで、蜘蛛が美女でもあることは少なくない。伊豆の代表的な伝説「浄蓮の滝の怪異」もそうであるし、日光の奥に行けば機織り姫が直接糸を掛けてくる様子を目にすることにもなる。 この軽井沢の話で注意したいのは、その女が機織りのモチーフを持っていない、というところだ。もしそれとは別の意で女なのか、というのがある。そうなると、東信には、蜘蛛がまた河童である、という話がまま見え、そちらとの関係、というのも考えておきたくなる（「通らず」など）。 ツイート