蜘蛛が淵

長野県南佐久郡北相木村

白岩の入口に蜘蛛が淵がある。昔は上に道があり、時々蜘蛛の巣が道いっぱいに張られたが、蜘蛛を見た人はいなかったそうな。しかし、ある日ひとりの釣り人がこの淵で釣りをすると、大蜘蛛が出て来て足へ糸を掛け、淵へ引き込もうとした。

釣り人は草履を取られただけで逃げ帰ることができたが、話を聞いた村人たちが集まって、蜘蛛祭をやって沢山のお経をあげた。それから後は、蜘蛛も巣を張らなくなったという。今の経塚はこのときのものだそうな。

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より要約

佐久地方というと、河童が蜘蛛になったり、蜘蛛が美女になったり、という話が色々にあるが、無論それらは佐久にあっても特殊な事例で、当地でも一般的な蜘蛛が淵(というほどにこの話がたくさんあることがむしろ異例といえるが)の話は、普通に蜘蛛が糸を掛けてくる話となる。

この北相木の話もそういう普通の蜘蛛ヶ淵の話なのだが、最後にやや要注目なところがあるので特に引いた。各地の蜘蛛ヶ淵の話というのは、その蜘蛛がどうなったのか語られることがあまりない。糸を掛けられた人がたまげて逃げ帰って幕なのが普通だ。

それが、ここでは「蜘蛛祭」なるものを催し経をあげ、蜘蛛の動きを封じたのだ、という幕がある。また、その遺構だという経塚があるかあったかしたのだという。もし、蜘蛛祭の具体的な様相などあれば(かつてこの淵脇で続けられいた祭だった、など)、大変注目すべき事例となるだろう。