酒飲み弁天

長野県中野市

昔、間山に造り酒屋があった。そこで新酒が売り出されるので酒好きが集った時、夕方に美しい娘が一人で酒を買いにきた。そして小さなふくべを出し、それに酒を入れてくれ、という。これではいくらも入らない、と酒屋の小僧は思ったが、何杯入れてもいっぱいにならず、ついに一升以上注いでしまった。

まだまだ入るようだったが、娘はこれで結構と、お金を払って帰った。そして、次の日も次の日も、娘は小さなふくべを下げて酒を買いに来るのだった。酒屋の小僧が不思議に思ってあとをつけると、娘は山道を進み、小僧がちょっとつまづいた隙に消えてしまった。

小僧が辺りを見回すと、そこには池が広がっており、池の向こうの岩の上には弁天様が祀られていた。あの娘のお顔で。それからこの酒屋では、新酒ができると、この池の端の弁天様にお供えする習わしになった。

高橋忠治編『信州の民話伝説集成【北信編】』
(一草舎出版)より要約

対応する酒屋・池・弁天が間山に今あるのかどうかなど、詳細は全く分からない。このように、弁天さんがお酒を買いに来る、という話は各地にままあり、これは典型的な筋といえる。今は、その参照例としてあげた。