臼田町広川原の禅昌寺から少し登った所に地下湖がある。その向いは広々とした川原のようになっている。この暗い所で、むかし弁天様が機を織ったという。石に耳をつけるとチャン、チャンという音がしたそうだ。この池を機織りの池といい、続いて奥の池を弁天の池という。少し前までははたしもあった。(はたしは機織機)
またこの池へ金物を持って入ってはならないといっていた。それをある武士が決りを破ってはいると、刀は池に落ちてしまい急に橋も見えなくなるほど水が増えたという。(田口、農、高橋大吉60)
広川原禅昌寺の後背に地底湖があるのは本当で、最勝洞・広河原洞穴群という多くの穴が点在する。その内の、本穴という穴の底に地底湖がある。椀貸し伝説も語られる場所だ(「本社の池」)。
弁天池ともいわれるが、各地の弁天でつながりを語るものも見え、どこそこの弁天の穴は広川原の弁天穴に通じている、などという。しかし、そこに実際はたし(機織機)があったというのは驚くべき話だ。洞穴の中にあったというのだろうか。
金物の禁忌があるのも見逃せないところだろう。機織りの水辺で金物、特に刃物を禁じるのは、昔刃物で機糸を切ってしまったから、という場合と、ヌシの竜蛇が金物を嫌うからという場合とあるが、どちらともとれる。ちなみに、普段はこの地底湖の水は増減しないという伝がある。
また、同佐久市は大沢新田のほうには、弁天が機を織っている穴に入ると、足を病むとする話もある(「弁天様の岩穴」)。そのような話も竜蛇にまつわる筋の可能性があり、併せ見ておきたい。