滝戸山の主を撃った話

山梨県笛吹市

昔、鶯宿に宮川米太郎という鉄砲の名人がいた。屋根にマリを投げて、落ちるまでに火縄銃で三度命中させたという。その米太郎が大きな赤い犬を連れて滝戸山へ鹿撃ちへ行ったとき、先を行った犬が叫んで逃げかえってきた。見ると、大蛇が大口をあけて追ってきている。

これが滝戸山の主かと思った米太郎は、思い切って鉄砲を撃った。弾は口から頭を貫き、大蛇はブナの木に尾を巻きつけ、もんどりうって倒れた。米太郎は大蛇を一間づつに切って、サギ形に積んで帰った。

二三日後、その話を友達の吉五郎にすると、あんなものが撃てるはずがない、という。しかし、この男が言うのなら本当かもしれんと吉五郎も思い、では見に行こうと連れだって滝戸山へ登った。二人はその大きさにたまげたが、積まれた大蛇はすでに腐り始め、ひどい悪臭を放っていた。

米太郎はその臭いで病気になってしまった。どうしても治らないので祈祷をしてもらうと、やはり大蛇が現れ、主と言われた自分が一発で倒されたのが面白くない、屋敷神として祀れ、という。そこで、また山に行き、大蛇の鱗三枚をはがし、頭とともに持ち帰って埋め、栗の木を植えて祀った。

以来、変わったことが起きるときは、家を継いでいる人の夢に大蛇が出て知らせたという。今の当主も父のいるときは信じていなかったが、その父が亡くなってからは自分がそういう夢を見るようになったという。その蛇は尾が切れて赤くなっているので、紅をつけている、といっているそうな。

芦川村教育委員会『あしがわの民話』より要約

鶯宿(おうしゅく)からは滝戸山を挟んで反対側の先、もう笛吹川畔の丸山塚古墳のあるあたりの龍華院というお寺に、その地に現れ付近を荒らした大蛇を滝戸山に封じたという伝があるそうで、同稿に併せ紹介されている。

山間の話になると、里人が直接大蛇と対峙する話が増えてくる。農村ではそれは領主なり高僧なりに退治をお願いするという相手なのだが、猟師は直に渡り合う存在のほうに入る。