お房淵

山梨県北杜市

津金村玄太山の後ろにお房淵と呼ぶ大門川の淵がある。昔からたくさんの人が此の淵で死んでいる。八十年位前にお房という娘が此の淵に身を投げて死んだ。それ以来この淵をお房という。
この淵の主は大きい蜘蛛だということである。この淵の附近へ行くと淵の主の蜘蛛に引き込まれるのだそうだ。
昔長澤の人某がこの淵近くへ草刈りに行った。馬をつないで草を刈り始めた。ふと見ると一匹の大きい山蜘蛛が足もとへ来て自分の足へ糸をつけては淵の方へ下がる。又来て糸をつけて行く。不思議に思ってそっとその糸をはずして傍のつつじ藪へつけて置いた。間もなくメリメリと音を立て、そのつつじ藪が淵の方へ引かれた。その時は蜘蛛のつけた細い糸が太綱になっていたと。(浅川勝蔵)

北巨摩郡教育会『郷土研究 第二輯 第一冊 口碑伝説集』
(昭和10)より

現在この淵があるのかどうかなどは不明。おそらく清里へ行く方だろう。話そのものは特に突出したところもない蜘蛛ヶ淵の話だが、前段にその淵に身を投げたお房の話があるところは気になるだろうか。