大杉になった大蛇

富山県黒部市

昔、荻生の村にタチの悪い大蛇がいて、梅雨明けになると大雨を降らせ洪水を起こし、村の田畑を流してしまった。村人たちが大蛇を退治しようと、長老の九郎平に相談したところ、漁師たちが時化除けに持っていく称名寺の彼岸団子を撒いて追いつめれば良かろう、ということになった。

策は当たって、普段姿を見せない大蛇は称名寺の境内に追いつめられ、仁王立ちになった。頭が八ツ、尾も八ツ、目は輝いて、体には苔が生え、口から出す舌先は赤い炎になり血が垂れていた。

この時、称名寺の本堂からお彼岸のお経が聞こえ、その響きに改心した大蛇は、寺の木となり村を守ろう、といった。そして、西空に沈む夕日に影をうつして一本の大杉になり、八ツの頭と八ツの尾は枝になってしまった。今もこの大杉をヤマタ杉(八ツ頭杉)ともいい、西方浄土に向いて、洪水がないように守っているという。

『黒部市史 歴史民俗編』より要約

称名寺は今もあるが、大杉というようなものは見えない。すでに現存しないようだ。時化除けに彼岸団子というのも面白いが、どういう漁撈信仰があったのかも不明。

ともあれ、この黒部の話の方は、目の前で多頭の大蛇が大杉に変身しているのであり、このイメージを提供する貴重な一話といえる。「仏法守護・村の守護」と言い出すあたりで、果して蛇から大樹への変身感覚が中心なのかどうか微妙というところもあるが、数少ない変身の話の事例ではある。