女に化けた蛇

東京都中野区

ほら、中野の坂って、中野坂上、いつごろの話かわかんないんですが、車をひいてねぇ、あすこを上がる人があったんですって。ね、そうすると、きれいな女の人が出てきて、「あんたの後ろ見ちゃいげません」て言ったって。ね、だが、後ろ見ちゃいげませんて言えば、見たくなっちゃうわね。そいでもって、こう、お金もらったんですって。小判二、三枚もらったんじゃないんですか。よくわからないけど。

それでね、後ろ見ちゃいけませんて言うから、お金もらったからね、もらったけど、どうかって見たくなるらしいやね。で、見たところがね、蛇がね、蛇がガーッととぐろ巻いてね、どっかあの辺にとぐろ巻いて、とび込もうとしたらしいんだなぁ。あの川か何かに。

そいでねぇ、やあっと思ったんですって。おっかねえから急いで家へ駆けてきて、もらったお金を見たところ、それが、木の葉っぱ三枚になった。いう話を、それはわたしの母親から聞いたんです。(中野 男 明治42年生)

中野区教育委員会
『中野の昔話・伝説・世間話』より原文

これだけでは何ともいえないので、現状そちらからのリンクはしないが、これも井の頭のヌシと中野長者の話を結ぶ一事例にならないか、とメモしておきたい。なんとなれば、井の頭の池にはいろいろな土地からこの話のようにして蛇が赴くのだ。

話の骨子は同じであり、場所的に中野坂上であれば、淀橋からすぐで、蛇が飛び込んだというならそこだろうという所ではある。しかし、この中野坂上の話では、美女の蛇がどこからどこへ行ったのか胡乱であるうえに、鱗を残すはずのところが木の葉になって、狐の小判になってしまっている。