むかし、吉原堰のところに大蛇がでたという。
あるとき、この辺が開けてきて棲みずらくなったので、上長磯の大堰(栗山水車の近く)にうつったという。
うつるとき大蛇のままではのめっこくっていけないので、娘に化けていた。
そこへ、馬方が馬をひいてやってきた。
大堰へ行ぎたくって、のっけてくれといって、馬に乗せてもらったって。
そしたら、その蛇がおもくって、馬がうんと汗かいたって。(天川大島)
吉原堰というのは、広瀬川から韮川が分岐するところをいう。上長磯の大堰というのは不明だが、ひとつ下手の下長磯に桃ノ木川に寺沢川が合流する地点がある。そこのことなら、大蛇は川の分岐する堰から合流する堰に移った、という話になる。
ともあれ、武州に多いが、上州ではあまり見ないヌシの蛇が人を頼んで移動する話(「見沼弁天」)がここにはあった、という事例となる。しかし、上州ではヌシの移動(による水場の移動)という話そのものを見ない。