だいだらぼうと片目のどじょう

茨城県結城郡八千代町

昔、瀬戸井村に「だいだらぼう」という大沼があり、葦がびっしり生えていた。これを食べさせると牛馬が腹を壊してしまうので、伸び放題になっていた。沼には片目のどじょうがいて主だといわれ、これは百年ほど前に漁師にヤスで片目を突かれて片目になってしまったのだという。

片目のどじょうは、時折水鳥を呑もうと、一斗樽ほどもある真っ赤な口を見せるので、村人は恐れ、誰もだいだらぼうには近づかなかった。ある年のひどい干ばつには、だいだらぼうの水も干上がり、底が見えていたが、片目の主がいるからだいだらぼうは干上がらない、という伝えを思い出した村人が鍬を打ち込むと、こんこんと水が湧き出したという。

この水と別雷神の清水で雨乞いを行うと、すぐに雨が降った。沼に水が戻ると、また片目のどじょうがゆらりと見え、底に消えたという。そのだいだらぼうも今は田んぼになってしまい、片目のどじょうを見つけることもできなくなってしまった。

平岡雅美『八千代の伝説と昔話 上』
(八千代町教育委員会)より要約

瀬戸井の真ん中あたり、八坂神社の南に、不自然に丸い田地が見え、そこが池だったのじゃなかろうか。ともあれ「だいだらぼう」という名が、巨人の話ではなく、単に沼の名として出てくる事例となる。一斗樽の口という片目の泥鰌もすごいものだが、そこはさて置く。

だいだらぼっち、というのは巨人の名で、大太郎「法師」の名が先だろうとされるが、「(だいだら)ぼっち」といって巨人の話を出さずに池沼や山峰をいうことがある。

私は「ぼっち」というのは地形上の目印となる山や池のことを言ったのが巨人・法師より先じゃなかろうかと考えており、瀬戸井のだいだらぼう沼もそういう「ぼっち沼」だった可能性はないか、と思う。