やけどの薬を買いにきた美女

茨城県稲敷市

浮島に通じる県道の右側に須賀津の弁天様がある。昔は周辺はカヤが一面に生い茂る湿地で、屋根を葺くカヤがとられていた。カヤは春先新芽が出る前に焼き払うと、良い芽が出て上質なカヤが取れるので、そのための野原燃しが行われるものだった。

そんな野原燃しの済んだある日、佐原の薬問屋に、絶世の美女がやけどの薬を買いにきた。店の者たちは女のあまりの美しさに言葉を失っていたが、姿が見えなくなってから我に帰って、店のあたりを見回した。すると、女が立ち去った跡が水で濡れていた。

不思議に思った主人が、小僧にその水の跡を追わせると、濡れ跡は須賀津の弁天堂に続いていたのだった。あの美女は弁天様だったのか、野原燃しでやけどし、女の姿になって薬を買いに来たのに違いない、と人々は噂し、ますます弁天様への信仰が深まったという。

朝日新聞茨城版『いばらきの昔ばなし』より要約

須賀津の弁天さまとは不明。下馬渡の毘沙門堂から浮島の姫宮のほうへ向かう間ということだろうが、見なかった。清福寺の境外堂というが、清福寺は須賀津でも県道から離れて少し南に水場からは遠ざかる。

しかし、県道のほうなら、今でも周辺は田か蓮田か湿地なので、話の風景は想像がつく。蛇の話だとは書いていないが、美女に化けて、というのだから萱畑で火傷をしたのは蛇の弁天さんだということだろう。

浮島にははっきり蛇とはいわないが、蛇らしき存在を匂わせる話がまま見える土地だ。この話にもそういった雰囲気がある。それにしても、佐原までは結構距離がある。なぜ佐原の薬屋なのか、というところにも注意が必要かもしれない。