わたしのおばあさんからわしら寝物語りに聞かされた事があんですよ。米ノ井の三仏堂でもって、将門の親は丁度戦争で出陣する時、お産したんだって。それが後に将門だちゅうんで、お産した時にね。その母親が矢でも鉄砲でも体に通らないようにって、蛇になって火を吹いて、体をなめて、そんで脳天だけを残しておいた話なんです。(以下略)
原文は「将門の最期と桔梗御前」という小見出しの話となり、以下桔梗が藤原秀郷に将門の弱点をもらす一般的な展開の話が続く。
ただし、将門の弱点は、影武者のうちにあって本物はこめかみが動くので分かる、というものと、鉄人である将門はこめかみにだけ矢が通る、というものがあるが、これは後者の話になる。話の中の「脳天だけを残しておいた」というのがそうで、母大蛇が頭だけ火で舐めなかったので、そこが弱点ということ。
ともあれ「将門の母は蛇」ということなのだが、房総のほうには将門の母・桔梗が蛇になるという話があり(「桔梗前弁天」)、私はこの火を吹いて赤子をなめた母の蛇というのも、本来は桔梗だったのじゃないかと思う。
無論、よく知られる話としては桔梗は愛妾なのであり、藤原秀郷と瀬田の竜女の間にできた娘であったりするのだが(「桔梗姫」)、どうもここには「とりちがえた」ではすまない構成があるような気もする。