牛伏の公民館一帯を寺屋敷というが、その西方に泉があり、弁財天が祀られている。昔、この地のある家に世継ぎがなく、近くの村から女子をもらい、養女として育てた。
ところがある朝、養母が起こしに行き、布団をはぐと、男女が蛇のようにからみ合い交尾するような形であったので、里に帰したとも、思い余って命を絶ってしまったともいう。そして、この養女を悼んだ村人たちが、弁天として祀ったのだそうな。
御神体は白蛇のほりものと、池の底から出土した貝の化石であり、この弁天さまを担ぎ出すと雨が降るという霊験があった。近年、近くの村の若者たちが雨乞いのために担ぎ出して、戻す場所を間違えたので、今は南のほうに鎮座している。
弁天さんの現状は不明。牛伏の池というのもわからない。話自体も単に娘に男が通ってきてただけじゃないのかというもので、竜蛇伝説かというと微妙なものだ。しかし、全国に枚挙にいとまなく語られる蛇聟の一面のなんたるかを生々しく語った事例、といってよかろうと思う。
少なくとも、それで娘を弁天として祀り供養しようとした、という何事かはあったわけだ。取り立てた怪異が語れなくとも、亡くなった娘の供養、ということで弁天は祀られ(「弁天様とお里」なども参照)、またこれが降雨をもたらしたりもする。