立根のお滝さま

岩手県大船渡市

立根町毛無森の麓に、滝がありお滝神社が祀られている。昔、立根町田谷の「静」という屋号の主婦が三日も続けて川に血が流れて来るのでおかしく思い、遡ると滝壺の真ん中に主の大蛇が死んでいた。

主はこれまで少しでも川の水が減ると、雨を降らせて己の姿を隠していた。主が死ぬと付近の村人が水不足に苦しむことになると思った「静家」の主婦は、すぐ寺に頼み祈祷してもらい、新しい主が居着くようにと、お宮を作り、毎年その日にお参りすることになったという。

『大船渡市史 第四巻 民俗編』より要約

この滝がどこのことをいうのかは不明だが、それらしいところに石祠のある滝は存在するらしい。ともあれ「新しい主が居つくようにと、お宮を作り」という大変興味深い一文を含む伝説が毛無森山麓にはあったということだ。

蛇は邪である、排除すべき怪であるということに終始しはしない。その存在は水神格であることを代表として、やはり必要な神霊でもあるのだ。今に見る祭祀の中にも「ヌシの更新」を願ったものがたくさんあるはずだ。というより自然神と人との関係というのなら、そこに神祀りの核心があったはずである。