立根のお滝さま

原文

立根町毛無森の麓に、一丈ほどの滝がある。近くには、屋根と四本の柱だけという形ばかりのお滝神社も祀られている──

昔、立根町田谷の「静」という屋号の主婦が、川で洗濯をしていると、上流の方からおびただしい血が流れてきた。それがなんと、三日も続けて流れてくるので、おかしいと思い、血の流れをたどって、上へ上へと川をさかのぼっていった。

ややしばらくのぼって行くと、磐石の間を川の水が砕け落ちて、すいこまれるような滝壺のところにたどりついた。よく見ると、滝壺の真ん中に大きな大蛇が死んでいた。この滝の主だったのである。ここの水が少しでも減ると、己れの姿が見えるので、水が不足してくるとそのたびに、雨を降らせていたのだという。滝の主が死ぬと、付近の村びとは水不足に苦しむようになるというので、この「静家」の主婦は、すぐ寺の住職に頼み、御祈禱をして貰った。

そして、新しい主が居つくようにと、お宮を作り、毎年その日にお参りすることになったのだという。

立根の人びとは、田植がすむと今でも毎年、この「お滝さま」に御礼参りに行くことにしているという──。

『大船渡市史 第四巻 民俗編』より