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昔々ココット村で…1

a side story ジゴロウ・リオ篇

コット村から「森丘」へのびる道は二つある。
片方は荷車やアプトノスが通れるように整備され、高低差を迂回するように敷かれた道。もう片方は人が歩ければ良い、という程度のもので、村から小高い山をひとつ越すようにして森丘へと続いている道。こちらは山を突っ切る分正規のルートより手短に行き来することができ、村の者が森丘へ採取に出かける際に良く使用されていた。

しばらく前にこの山道の途中に新しく古めかしい庵が建てられた。「新しく古めかしい」というのもおかしな話だが、もともと村にあった家を解体し、山中に運んで組み直したのであるらしい。
ココット村から森丘への山を抜ける道には、人の住む家はこれしかない。ここより山奥には時折炭焼きに使われる小屋がいくつかあるだけだ。

そんな山道をココット村からその庵へと向かう一人の少年がいた。白樫を削って作られた、ハンターナイフを模した木剣がその手に握られている。年の頃は十に満たないように見える(というかまだ「かぞえ」で六つだ)。村のものは皆健脚で、このくらいの山道はものともしないが、少年はまだ小さいながら、その村人達と比べても随分と達者な山行きをしていた。ほとんど平地を駆けているのと変わらない。

ふと、その少年が足を止め、放心した様な目を頭上を覆う木々に向けた。季節は春から夏へ向かっている。落葉樹の多いこの道すがらの木々は、今を盛りとばかりに濃い緑を生い茂らせている。緩やかな風がその木々の息吹を伝え、少年は深い深いその緑の匂いに浸っているような風情であった。

しばらくそうしていた少年は、ふと顔を前に向け、再び歩き出した。木々の根が階段状に連なる少し急な坂道を越えると、やや大袈裟な石垣が前方に見える。その上に少年の目指す庵は建っていた。ジゴロウというハンターがしばらく前に構えた庵である。

「ラオシャンロンに踏んづけられて上のボロ屋がぺしゃんこになったって、この石垣は崩れねぇ」と大真面目な顔で自慢していたのは、この石垣組みを指揮した武器工房の親方だった(村の大工を兼ねている)。少年はこの石垣を見ると、いつもその時の親方の顔を思い出し、少し笑うのだった。そして、少し息を整えて、その石垣の側面にしつらえられた階段をかけ登る。庵の窓は開け放たれている。どうやら庵の主は在宅の様だ。

「ジゴ爺!」

少年は大きな声で呼びかけ、遠慮もなく庵に入ってゆく。明度差があって、部屋の中は随分暗く見えたが、目が慣れるにつれて少年の目が輝きを増してゆく。大きなテーブルの上にはところ狭しと何かの木の実やら牙やらが散らばっており、その向こうで白髪を後ろに束ねた庵の主がそれらと格闘していた。

「おお、リオか。まぁ、ここに来る物好きはお前さんくらいのもんだがな」

ジゴロウは手を休め、リオ少年に優しい隻眼を向けた。

「入って座っておれ。リオは茶なぞは好かんのだったな。ケルビのミルクがあったな、あれを暖めてきてやろう」
「ハチミツいれてっ!それよりもこれはなに?」
「注文を付けて、それよりもときたか。おぬしもだんだん遠慮がなくなるの」

そうは言いつつもなんだか嬉しそうなジゴロウは、リオに戻るまでそのあたりのものにさわらないように、とクギを刺し、水場の方へ入っていった。

開け放たれた窓からは、森を抜けてきた風が流れ込み、先ほどの山道でリオを包んでいた深い緑の匂いをこの部屋まで運んできている。軽い羽音がし、一羽の小鳥が窓にとまった。せわしなく尾を上下させ、小首をかしげながらテーブルの上の木の実に注目している。

「だめだよ」

リオはそう言いながら手にした木剣を軽く差し出した。不満そうに一声鳴きながら飛び去る小鳥を見送り、テーブルの上に目を戻す。

(弾…かな?)

と思う。実のところリオはボウガンのことを良く知らない。村にいた頃のジゴロウは双剣をふるっていたし、その弟子だったカエ姉もあまりボウガンは使っていなかった。昨年の夏くらいからリオは直接ジゴロウに狩りの手解きを受ける許しを得たものの、実際習っているのはまだ片手剣の素振りだけだった。

(すごい牙だ…)

ひときわ目を引くモンスターの牙。その鋭さにリオは目を奪われた。ランポスの牙なのだが、リオはまだ生きたランポスを見たことがない。
部屋の隅には、いつも通りハンターシリーズの防具が几帳面に揃えられており、その脇には1丁のボウガンが立てかけられている。村にいた頃のジゴロウの部屋にはもっとたくさんの武器や防具が置かれていた。遊びに行った時、それらを見、そのひとつひとつにまつわる狩りのお話を聞くのが楽しみのひとつだったリオは、その頃を思い出して少し残念な気がした。

「なんぞ面白いものがあるかの」

ふと目を上げるとジゴロウがカップを二つ持って戻ってきていた。

「うん。これは…弾?」

ハニーケルミルクの入ったリオにはいささか大きなカップを両手で受け取りながらリオはたずねた。

「ほほ、良く分かったの。そうじゃ、まさにボウガンの弾をこさえているところよ」

これがハリの実、あっちがはじけくるみ、その隣がランポスの牙…と、ジゴロウが説明する。
「ふーん。でもなんで弾なんか作ってるの?お店で買えるって父ちゃん言ってたよ。ジゴ爺…お金ないの?」

一瞬ジゴロウは虚をつかれた顔になり…そして大笑いした。

「いやいや、わしは確かに金持ちではないが…弾が買えんほど困ってもおらん。そうじゃの、なんと言ったら良いか…ふむ、リオはその剣、その木の剣じゃ、それを親方にこさえてもらった時に、最後のヤスリがけを手伝ったじゃろ」
「うん、手伝った」
「どうじゃ、自分でヤスリをかけたあと、なんぞ違う気がしなかったかの…何と言うか、持った感じというのかの…」
「した!すごく剣が強くなった気がした!」
「ほう、そうか。うむ、まさにそういうことじゃな」
「?」
「弾も同じということよ。自分でこさえた弾だとな、何と言うか、少し強くなった気がするんじゃな」
「うそだー。本当?」
「いや、本当はそんなことはない。むしろ素人のわしのこさえた弾の方が危なっかしいの。この間も、ほれ、そこの牙になっとるランポス、そのランポスを狩る際に弾が不発での。肝が冷えたわい」

村のものには内緒じゃぞ…と、いたずらっ子の様な目になってジゴロウは言った。英雄とか言われとるわしがランポスに肝を冷やしたなぞという話が広まると、いささか気まずいのでの…と続ける。

「しかしな、そうであっても自分でこさえた、という点が大事だと思うのよ。強くはならなんでも、己が身の延長である、と思うことはできる」

と続け、ジゴロウは少し真面目な顔になった。

「良いかの、リオ。ランポスであれ、巨大な飛竜、リオレウスであれ、奴らがハンターに挑む際に用いるのは己が身ひとつじゃ。反対に、わしら人間が体ひとつで飛竜を前にしたらひとたまりもありゃせん。だからこうして道具を工夫し、知恵を使う。じゃがな、それであるにしてもなるべく人間も己の手でつくり出したもので奴らに対するのが、命を狩るものの礼儀ではないかと、最近になってわしは思うのよ」
「ふーん?」
「ほほ、リオにはちと難しいかの」

と、言いながらジゴロウは立ち上がり、部屋の隅に立てかけてあったヘビィボウガンを手にした。

「村におった頃は伝説の封龍剣までも手にしていたわしじゃが…今手もとにある武器はこれだけよ。でもな、このヘビィボウガンもな、わしが作ったのじゃぞ」
「これ、ジゴ爺が?」
「うむ。親方のところに泊まり込んでの。骨の削り出しから銃身をこさえる技術、弓の調律から最後の皮貼りまで、一から教わりながら作ったのよ。これとて形はアルバレスト改と言われるボウガンじゃが…本職がこさえたものよりはいささかぶかっこうではあるな」

不格好と言いながらも、ジゴロウは愛おしそうにそのボウガンを眺め、再び部屋の隅へ立てかけた。

「もっとも頑丈ではあるぞ。親方にも百年使えると太鼓判を押してもろうたしの。わしは百年も生きられんから…よいよいになったらリオ、お前さんにくれてやるかの…」

そう言うと、ふと何かを思い出した様な顔になり、続いてジゴロウは笑い出した。

「ほうじゃ、ほうじゃ。わしがここに居を移して、一からハンターをやり直す、と村長に挨拶をしたときじゃが、あのジジイ、わしに向かって『おぬし、どうやらハンターを志す者のようじゃな。』と抜かしおったわ」

竜人族も冗談を言うのじゃな、とジゴロウは笑い、一転、厳しい眼差しとなる。

「しかし、その後に続けて『ハンターとは何か?』と言ったな。その目は笑っておらなんだ。してみれば、あれは冗談ではなかったか。ふむ、あのジジイ、まだわしを試すつもりかの…」
「試す?」
「…うむ。ん?おお、すまんな。これはわしの独り言じゃ」

少し心配そうな顔のリオの頭をジゴロウはその節くれ立った大きな手で少し乱暴になでると、もとの柔和な顔に戻り、自分の茶をすすった。リオもつられてハニーケルミルクを口にする。猫舌のリオにも程よい温度に冷めていたそれはたっぷりハチミツが入っており、たいそううまかった。

「うまそうじゃの。よし、それを飲んだら片手剣の稽古を付けてやろう」
「うん!もう100回ふれるようになった!」
「頑張っとるな。受け身はやっておるかの。片手剣は身の軽さが身上じゃからの…」

二人の影が出て行ったあと、部屋には時折入り込む緩やかな風が立てるかすかな音だけが残った。
窓からは柔かな日の光が差し込んでいる。
その光はテーブルの上に残された雑多な木の実やランポスの牙などを、そして二つの空になったカップを優しく照らし出していた。

LinkIconつづく

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諸注意

・年表
ここで大まかな時系列を掲載しておきます。
ビッケ篇のビッケ(20歳)を起点とすると以下の通り。

30年前 ミラボレアスの降臨
28年前 カエラがジゴロウのもとへ
25年前 ミラバルカンの降臨
24年前 カエラポッケ村へ
23年前 メタペタットの竜の横溢
20年前 ビッケ誕生 カエラ26歳 ジゴロウ52歳 リオ3歳
17年前 このお話の年

・一からハンターを…
これは単にジゴロウの個人的な思惑に拠るものではありません。弟子であった「トレミア家の娘」を送り出し、「次の娘」が生まれたことを受けての遠い将来を見通しての決断です。

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