大ウナギ

門部:日本の竜蛇:四国:2012.03.25

場所:愛媛県宇和島市津島町
収録されているシリーズ:
『日本の伝説36 伊予の伝説』(角川書店):「大ウナギ」
タグ:竜蛇と鰻


伝説の場所
ロード:Googleマップ

竜蛇とウナギの関係でよく覚えておかねばならない実際の生き物に「オオウナギ」がおる。でっかいウナギのことではなく、別種だ。比較的多く見られる九州では「カニクイウナギ」などとも呼ばれるので蟹との関係もあるかもしれない。

オオウナギ
オオウナギ
リファレンス:真人屋のジオログ画像使用

写真に見るようになまじの蛇等より余程大蛇のようだ。わりと簡単に一メートルを超え、最大二メートルにもなるというので、これが上がった日には伝説も生まれようというものである。この「オオウナギ」に関して(さらに竜蛇と関係して)、愛媛宇和島の津島町、「てんやわんや」の舞台になった岩松川流域に、伝説と実物の両方が揃っているので紹介しておこう。

むかし、村に笛の名手の若い男がいて、河畔でよく笛を吹いていた。ある日、いつものように笛を吹いていると美しい娘が来て、男が笛を吹き終えると静かに去って行った。つぎの日もやって来て、そのつぎの日もと、たびたび来るようになり、ふたりはいつしか恋を語りあうようになる。
だが、住まいも名も教えぬ娘のことを探し求めて男が歩き、ようやく水鏡に自分の姿を映しながら化粧している娘に会い、ふと川面を見ると、娘は大蛇であった。正体を見られた娘は嘆き悲しむが、娘の美しさとやさしさに身も心も奪われた男は途方にくれる。
娘は、最後の思い出に笛を吹いてくれと頼み、男が笛を吹き終えると、ひっしと男を抱きかかえて滝壺に身を投じて、二度とふたたび浮き上がらなかった。岩松川で獲れるこの大ウナギは、そのときの大蛇の化身だといわれ、水鏡にしたところを鏡岩、身を投じた場所が鍋の滝とよばれている。

角川書店『日本の伝説36 伊予の伝説』より要約

岩松川
岩松川
レンタル:Wikipedia画像使用

話の舞台そのものは岩松川を随分遡って山財の方。そこにあるその名も横笛渓谷に鍋の滝等はあるようなのだが、一方で宇和島市のサイトには「岩松川のオオウナギは、高田八幡神社の宝刀「瀬上の大刀」で切られた大蛇の化身という言い伝えもある。」とある(これ以上は不明)。実際この岩松川ではオオウナギが獲れたのだと言い、先の「てんやわんや」の獅子文六は「名物にあらず化け物なり」と言ったそうな。岩松公民館のロビーには1.5メートル超のオオウナギのホルマリン漬けが飾られており、昭和十年には二メートルのものが獲れたと記録が残るという。

「岩松川の大ウナギ」(webサイト「宇和島市HomePage」)

高田八幡神社
高田八幡神社
リファレンス:間口は広いが奥行き無し画像使用

さて、伝説の方は竜蛇譚としては笛を吹く若者が蛇の化生した美女に取り殺されるという、これ以上ないくらいの典型話で、とくに語るべき所もないだろう。問題なのはその大蛇の化身がオオウナギなのだと語られている点だ。

竜蛇と鰻への信仰は水神信仰としてきわめて類似しており、それはほとんどの例が置換可能であるほどである。しかし、実際竜蛇と鰻が伝説上直線で結ばれている話というのはそうはないのだ。この岩松川の伝説はまずその一例として特筆されるものである。また、この一例がオオウナギの生息地に語られた(そのオオウナギの由来として語られた)という点もとても興味深いことだろう。オオウナギの生息域はポリネシアの方へ広がるが、ウナギが神話で重要な役割を果たす地域とかぶる(既に沖縄の方ではオオウナギの方が本土のウナギより多いのだそうな)。

しかし、岩松川の伝説周辺では「鰻の禁忌」的なものが見えないのが残念ではある。先の標本のオオウナギの上がった増穂川の河畔には三島神社も見えるのだが、詳細はわからない。地誌の類から何らかの広域鰻信仰へ接続するような面が見えて来ることを期待したい。

「増穂:三島神社」(webサイト「愛媛県神社庁」)

ところでこのオオウナギ、食べるにはあまり美味いものではないとあちこちに書かれている。で、実は私は子どもの頃多分こいつを見ている。田んぼの用水でのたくっていた異様に大きな鰻を見つけて大人たちに知らせ、おっちゃん連中が大騒ぎになったことがあった。もう日が沈んだ頃合いで捕り物は失敗に終ったのだが……大人たちは「蒲焼だ、蒲焼だ」と目の色を変えていたが、つかまえてさばいても舌鼓を打つ、ということにはならなかったのだな……と数十年を経て思った(笑)。

memo

大ウナギ 2012.03.25

四国地方: