天に上った竜の子

門部:日本の竜蛇:四国:2012.01.07

場所:高知県いの町:仁淀川
収録されているシリーズ:
『日本の伝説22 土佐の伝説』(角川書店):「天に上った竜の子」
『日本の伝説22 土佐の伝説』(角川書店):「星を射落とした話」
タグ:竜蛇の子/竜蛇の昇天/賀茂の竜蛇神


伝説の場所
ロード:Googleマップ

土佐の仁淀川流域の旧吾川郡伊野町は、土佐和紙と最近ではこれを使った鯉のぼりの川流しが有名だが、この川端からかつて「竜の子」が天に昇ったという。妙にリアルな話で唸る。伝説の中には時々こういった何の教訓も象徴性もなく、ドキュメンタリーなものがある。

仁淀川:伊野あたり
仁淀川:伊野あたり
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天に上った竜の子:要約
元禄のころ、土佐市の中島に住む郷士の某が、仁淀川原において金色に光る珍しい小石を拾い、持ち帰って床の間に飾っておいた。すると、夜中その小石が薄煙を出すようになり、七日目の夜になって割れはじめ、吹き出す煙が郷士の家を包む勢いになった。
そして小石は急に鳴動しはじめた。そのとたんに一天にわかにかき曇り、大雨が激しく降りだしたかと思うと、小石は真っ二つに割れ、中からイモリに似たものがはい出してきた。
それは見るうちに、庭の土用竹にはい上がり、雲とともに天に上っていった。村人たちはこれを竜の子と噂しあったという。

角川書店『日本の伝説22 土佐の伝説』より要約

一見賀茂系な話である。郷士の住んだ中島というのはずっと下流だが、金の小石が拾われたという伊野のあたりは実際「加茂山」の麓でもある。鎮守の「椙本神社」は大和三輪から流れ流れて来た神像を祀るともいう。すぐ近くには「高宮神社」とも見える。今回賀茂氏と土佐の関係云々には立ち入らないが、お膳立ては揃っていると言えるだろう。

椙本神社
椙本神社
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「椙本神社」(webサイト「神社探訪・狛犬見聞録」)

そして、ここの少し上流部にいまひとつの大変興味深い伝説がある。竜蛇譚ではないので、ここで併せて紹介しておこう。高知県高岡郡日高村能津(「日高」なのだ)。先の話から直線距離で7〜8kmほどだろうか。

星を射落とした話:要約
ある年、見なれぬ奇妙な星が空に現われ、同時に悪い病気が流行して死者が続出する状態となった。人々はどうすることもできず、年の改まるのを待ちわびるような状態であった。が、ここに二階堂弥太夫という郷士がいた。弥太夫は近郷に知られた弓の達人で強弓をひくことで知られていた。
弥太夫は流行病を見なれぬ星のせいと考えて、ある夜その星を目がけて大弓をひきしぼってひょうと射放した。とたん弓は折れたが、矢はうなりをあげて天空に飛び去り、不思議なことに星は大音響とともに地上に落下し、七日七夜怪しい光を放ったままであった。
その後弥太夫は熱病におかされて死んだという。村人たちは弥太夫の死を星を射落としたせいと信じ、星を祭って「星の御子さま」とよんで祭りをつづけていて、この地を星ノ向コウというようになったという。現在大同と赤奴田という二つの部落の人たちで、一年一度の祭りをつづけている。

角川書店『日本の伝説22 土佐の伝説』より要約

仁淀川:能津あたり
仁淀川:能津あたり
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現在この星祭りがまだ行われているのかどうか分からない。『日本の伝説22 土佐の伝説』は1977年発刊だから、その辺りまでは行っていたのだろう。さて、問題はこの射落とされた星とさきの竜の子が生まれた金の小石のイメージが繋がる……のではないか、ということである。

星への信仰がどこかで竜蛇への信仰と繋がっているというのは色々な面から予感される。しかし、具体的にどう繋がっているのかというと北辰(北斗七星)は竜蛇だと捉えられるケースがある、というくらいでよく分からない。

仁淀川の伝説が繋がったものなのかどうかは無論分からない。とくに地元でこの二つの伝説が連絡している様子もない。しかし、もしそうならば、星と竜蛇の関係に具体的なイメージをもたらすケースになるかもしれない。そこに期待してセットで覚えておきたいのである。

memo

天に上った竜の子 2012.01.07

四国地方: