白竜と長者

門部:日本の竜蛇:四国:2012.03.15

場所:愛媛県四国中央市寒川町
収録されているシリーズ:
『日本の伝説36 伊予の伝説』(角川書店):「八王子」
タグ:竜蛇と長者/寄り神


伝説の場所
ロード:Googleマップ

神を祀るには、そこにいる神を祀る次第と、寄り来る神を祀る次第がある。無論便宜的にそういう二つの相を仮定してみると色々考えられることがある、ということではあるが。蛇を神格化し、屋敷の神として祀る次第にもその二相を適用してみて見ると面白い。一見して「蛇を飼う」という同じことをしているようで、少し違うのではないか、という所が見えてくる。

伊予寒川(いよさんがわ)。昔、この海に正直で働き者の漁師がいた。ある日、漁師は浜辺で子どもたちが小さな白蛇をいじめている所に行逢い、白蛇を助けて家に連れ帰った。
するとこの白蛇が口をきいて、「わたしによく食べさせば、わたしが太るにつれておまえも村一番の長者になる」という。漁師はその白蛇を大切にして、自分は食べなくても白蛇には食べ物を与えた。
白蛇が大きくなったある日、漁師は庭の隅にたくさんの小判を掘り当てて、白蛇の言ったとおりに長者となった。しかし、年月が過ぎ、長者の代がかわり、欲の深いものが当主になった。当主は白蛇に食べさせるのを惜しんで、粗末に扱った。
するとある夜、白蛇は白竜となり天高く舞い上がり姿を消してしまった。長者の家はまたもとの貧しい漁師になった。後に村人はこの白竜を祀る社を建て八王子さんとか「七人童(ひちんど)さん」とか呼んでいる。

角川書店『日本の伝説36 伊予の伝説』より要約

『日本の伝説36 伊予の伝説』では「八王子」として掲載されているのだが、地元では「白竜と長者」の名で語られているようなので、この稿はより内容をよく示す後者のタイトルとした。

伊予寒川の港と法皇山脈
伊予寒川の港と法皇山脈
レンタル:Panoramio画像使用

一見しては屋敷神である屋敷蛇の話であり、特に四国にはトウビョウさんという蛇神を祀った人びとがいたのでその流れのようにも見える(トウビョウさんは多く憑き物筋として扱われるが、おそらくその実態は一族の祖である屋敷神を祀る次第である)。

東北の五郎兵衛淵の話の所で〝つまり「家」には建てた人と建てることを許した土地の(自然の)神という「二つの持ち主」がいるということである。そして、屋敷蛇とは、この「家の自然側の持ち主」のことに他ならない〟と述べた。

これは「そこにいる神を祀る次第」であり、トウビョウさんもおそらくそうである。しかし、伊予寒川の長者の話はこれとは少し違う面があるのではないかと思う。何となれば、この話は九州に色濃く語られる「はなたれ小僧さま」の話にきわめて近いように思えるのだ。「はなたれ小僧さま」は『まんが日本昔ばなし』にもあり有名なお話だが、一応あらすじを載せておこう。

昔ある所に貧しい爺さんがおり、薪を担いで売りにいったが、その日は一把も売れなかった。帰り道くたびれ果てた爺さんは竜神さまを祀る祠の前の川で、竜神さま使ってくださいとその薪を流した。
すると女が現れ、薪の礼に何でも願いを叶えてくれるはなたれ小僧さまを授けましょうと言う。名のとおりに洟をたらしたあまりに汚い小僧さまだったので爺さんは邪険にしたが、試しに立派な家を出してくれと言うと、小僧様が洟をすすり、あばら屋が御殿になった。
これは本当に竜神の子と次々願いを叶えてもらい爺さんはすっかり大金持ちになった。しかし、小僧さまを連れてきた女との約束の日に三度の「エビナマス」を与えることも面倒になって来た爺さんは、欲しいものはみんな貰ったし、小僧さまにもう竜神さまの所へ帰ってくれと頼む。
小僧さまは頷き去るが、外からひときは大きく洟をすする音が聞こえるとともに、途端に家はボロ屋に、爺さんはもとの貧しい爺さんに戻ってしまった。

『まんが日本昔ばなし』より要約

『まんが日本昔ばなし』「はなたれ小僧さま」
『まんが日本昔ばなし』「はなたれ小僧さま」

〝あちら〟に富の源泉があるとして、いわば重層的にその場に〝あちらとこちら〟を重ねて見、そこその場に通路を開きコントロールしようとするのが「そこにいる神を祀る次第」である、とひとまず考えてみよう。これに対して、〝あちら〟が海の向こうや山の向こうにあり、富の流れは〝そことここ〟を巡回しており、その流れを引き入れたいという次第が「寄り来る神を祀る次第」なのだと見ることもできるだろう。そして「はなたれ小僧さま」はまさにそのような寄り来る神なのだと言える。

伊予寒川の白蛇はこのはなたれ小僧さまと同じ役割を果たしている。即ち「寄り来る蛇神」だったと思われるのだ。これは土地のヌシとしての蛇神とはやはり異なる。この点確認がとれなかったのだが、去った白竜が「八王子」、さらには四国に多く語られる七人ミサキを思わせる「七人童(ひちんど)さん」という名で祀られていることも暗示的だ。さらに西、九州へ近づいた松山の方では蛇女房譚と不思議な玉の話が一緒になったような「竜宮からの富」の話もある。このようなわけで、四国にはトウビョウさんと並んでそのような蛇神の系があり、一見すると大変似た祀られ方をしているという面白さがあるのである。

このような「隣り合わせ」具合の示す類似と差異は、長い間に入りまじりどちらともつかぬことになっている例も多いのだが、見極められそうな例があるなら、それはその土地の信仰空間を読み解く際に大きな武器となると思う。伊予ではそれが見極められるのか、そこに大いに期待したい。

memo

白竜と長者 2012.03.15

四国地方: