親蛇子蛇

門部:日本の竜蛇:九州・沖縄:2012.01.09

場所:宮崎県西臼杵郡高千穂町
収録されているシリーズ:
『日本伝説大系14』(みずうみ書房):「親蛇子蛇」
タグ:竜蛇を祖神とする一族/竜蛇と安産


伝説の場所
ロード:Googleマップ

人が困ってその氏神に頼りに行くのであれば、竜蛇が困って頼りに行くのもまたその竜蛇の祖となる神だろう。そんな蛇の話がある。頼って行った先は高千穂の御橋であり、その関係、まことに興味深い。

親蛇子蛇:要約
昔、堺の山の草場に夫婦蛇が住んでいた。雌蛇が臨月になったが、その頃は百姓が焼畑をする時期であった。雄蛇は百姓の夢枕に立ち、赤ん坊が生まれるのでそれまで一週間野焼きを待ってくれ、と頼む。しかし百姓はそれでは時機を逃すからと断る。
雄蛇は、それでは三田井の水神様に頼んでお産を早めてもらうのでせめて一日待ってくれ、と再度頼んだ。翌日、雄蛇は三田井の御橋の久太郎水神に急いだ。しかし、途中の五ヶ村を過ぎ、岩戸坂でふり返ると、自分の巣の山の方が燃えていた。百姓は待ってくれなかったのだ。
あれほど頼んだのに……雄蛇が自分の巣に急ぎ戻ると、無惨に雌蛇は焼け死んでいた。雄蛇は嘆き山をのたうち回って暴れ、遂には生き霊となって麓の村の人馬を脅し、不信を責めた。また、その村ではこれ以降作物ができぬようになり、怪異は明治まで続いたという。
そこで村人たちは話し合い、祠を建て「すいしゃく様」として蛇の霊を祀った。これにより怪異もおさまり、作物も昔以上にできるようになったという。(『高千穂町史』)

みずうみ書房『日本伝説大系14』より要約

高千穂峡
高千穂峡
レンタル:ゆんフリー写真素材集画像使用

西臼杵郡高千穂町・同郡日ノ影町・南那珂郡北郷村などにそれぞれの土地の話として同様の話が伝わる。とくに西臼杵郡に共通する内容なのだが、雄蛇が「三田井の水神さま」にお産を早める薬をもらいに行く、というところが興味深い。

三田井とは要するに天孫降臨を伝えるかの高千穂なのだが、雄蛇にとっては「三田井の水神さま」なのだ。「御橋の久太郎水神」というのは五ヶ瀬川に鎮座する五柱の水神の一柱で、鵜草葺不合命の御子たちのことだとも、長兄・五瀬命の遣わした臣下のことだともいう。

みやざきの神話と伝承101「五ヶ瀬川水系の守護神」

久太郎水神
久太郎水神
リファレンス:高千穂峡2「冬の高千穂・神話の旅 その17」画像使用

また、同地の「鬼八伝説」で鬼八が妻とした(あるいは攫った)阿佐羅姫は三田井の御池の竜神であったともいう。阿佐羅姫、又の名・鵜目姫は御毛沼命の鬼八誅滅後は御毛沼命の妻となっており、高千穂神社は命との間の八柱の御子をあわせて祀る。

さらに蛇祖の一族・皹太夫・緒方維基の子は三田井氏を名乗ったという。そのような絢爛豪華な日本神話の中心地に、雄蛇は必死に向うのだ。端的に言えば高千穂には蛇たちの神がいるのだ、ということになる。

この伝説は見かけはのどかな(悲劇だが)野に住む夫婦蛇の話だが、必死の雄蛇が意図せず示す先は深い。

memo

親蛇子蛇 2012.01.09

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