竜巻の落し子

門部:日本の竜蛇:九州・沖縄:2012.01.03

場所:熊本県阿蘇市赤水:蛇石神社
収録されているシリーズ:
『日本の伝説15 南九州・沖縄』(山田書院):「竜巻の落し子」
タグ:竜巻と竜蛇/阿蘇多氏


伝説の場所
ロード:Googleマップ

自然の猛威も竜蛇に仮託される。水にまつわる諸相は言うに及ばず、雷しかり、地震しかり、噴火しかり。しかし、日常使われる言葉で「竜」と用いる現象は「竜巻」くらいだろうか。風の猛威である。

何故竜巻というのだろうか。これは存外難しい。そもそも「タツ」とは何かというのが一筋縄では行かぬ話である。竜巻にしても、風が竜なのか、トグロのように巻くからなのか、巻き上がる(立つ)からなのか。風神は竜蛇なのだろうか、あるいは竜蛇は風神でありうるのだろうか。

分からないのだが、あれも分からぬこれも分からぬでは面白くないので実例の方を探ってみよう。竜巻を竜蛇と結びつけて祀る例はあるか……これは、あるのである。

赤水蛇石神社
赤水蛇石神社
レンタル:Panoramio画像使用

竜巻の落し子:要約
昔、肥後国阿蘇郡赤水村の河辺に巨大な船形の石があり、村人はこの巨石に船を繋ぎ、船着き場としていた。ある夏のこと、にわかに烈風が吹き付け、すさまじい竜巻が起り、船形石に結ばれていた縄を引きちぎって船を空中高くに巻き上げ、いずこへともなく運んでしまった。
人々はしばし呆然とした後、船着き場へと駆けつけた。すると、船を繋いでおいた綱の切れ端が、一尺ほどの白蛇となっていた。「白蛇は昔から神様のお使いと言うから、大切にしなくてはならぬぞ」との古老の言葉に従い、村人たちはその白蛇を大事に保護した。
それ以来、その船形石がさまざまな霊験を現すようになったので、村人は〝蛇石さん〟と呼んで祀るようになった。今は赤水蛇石神社の境内に祀られており、今でも石の割れ目の奥には数匹の白蛇が棲んでおり、時折姿を見せると言う。

山田書院『日本の伝説15 南九州・沖縄』(日本伝説拾遺会)より要約

竜巻を竜蛇神の神威であると語る伝説というのはたくさんありそうなのだが、実例というとそうは見ない。まして社を構えるまでに至った話というのは聞かない。

少数の例を分類すると、大まかに、竜蛇神が昇天するのが竜巻である・竜蛇神が暴れ出すと竜巻になるのでお供えを欠かさない・竜蛇神に粗相をした神罰が竜巻として現れる、あたりとなるだろうか(二番目は社がありそうだが、これが何と和歌山の鹿島山の話である)。

赤水の話は竜蛇の昇天の話がもとにあったように見える。風害に際して風神の総社格である龍田の神の分霊を迎える例は多いが、龍田彦・龍田姫ないし級長津彦命・級長津彦命が竜体なのかというとよく分からない。いずれにしても具体的に「白蛇」と言っている赤水の例は大変重要だと言えよう。

memo

webサイト「超阿蘇」様によると、赤水蛇石神社には何と実際に白蛇のつがいが飼われているそうな。「蛇石」の写真も掲載されている。

▶「赤水・蛇石神社」(「超阿蘇」様へ)

また、阿蘇市の案内によると蛇石神社は「健磐龍命(たけいわたつのみこと)が狩の折、この地に愛馬をつないだとされ、命の化身の白蛇が住み着いたと伝えられている。」という社でもあるそうな。阿蘇多氏の社、である。

竜巻の落し子 2012.01.03

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