底なし池の大蛇

門部:日本の竜蛇:近畿:2012.02.10

場所:京都府宮津市成相寺
収録されているシリーズ:
『日本の伝説1 京都の伝説』(角川書店):「底なし池」
タグ:竜蛇と鐘


伝説の場所
ロード:Googleマップ

讃岐の「国分寺の鐘」で頭に釣鐘をかぶって出現する大蛇の話を紹介し、世にも奇妙な話があるものだと感心したものだが、どうも釣鐘をかぶる大蛇は讃岐に限らないようだ。丹後天橋立を見おろす成相寺の蓮池は底なしだと言われ、かつて大蛇も棲みついたという。そして、この大蛇も釣鐘をかぶるのである。

弁天岩展望台を下っていくと、境内の庭園の片隅に底なし池がある。むかしこの池に大蛇が棲みつき、成相寺の小僧を次から次へとのんでしまうようになった。
多勢いた小僧がとうとう最後の一人になってしまったので、困った和尚は小僧に似せた藁人形を造り、中に火薬をしこんで坊に寝かせておいた。現われた大蛇がその藁人形をのみこむと、火薬が爆発した。
苦しんだ大蛇は、雲を呼んで空中にかけ上り、国分寺の吊鐘をかぶって阿蘇海を渡ろうとしたが、ついに力尽きて海中に沈んだという。

角川書店『日本の伝説1 京都の伝説』より要約

成相寺
成相寺
レンタル:Wikipedia画像使用

丹後の国分寺というのは成相寺の二キロ程南南西の麓の阿蘇海際にあった(今は跡のみ)。大蛇が力つきたのはちょうど天橋立の反対側の文殊のあたりだとも言う。

状況的には沈鐘伝説であったり、身代りの人形を立てたりする部分も面白いのだが、話を広げるには現状周辺状況がよく分からないのでさて置こう。また、成相寺は「左甚五郎の竜」の話のあるところでもあるが(竜像は現存)、これも別の機会に。

ともかく今注目したいのは火薬の爆発で遁走しようという大蛇が釣鐘をかぶって海を渡ろうとする、という一点だ。とんだスラップスティックである。しかも「なぜ」の部分が色々見ても頓着されていない。

大蛇はピンチになると釣鐘をかぶるものなのだという共通認識でもあるのだろうか。私が知らないだけで有名な話にそういうモチーフがあるのか。あまりにも自然に「吊鐘をかぶって」と語られるので、少々心配になって来ている。

例えば茨城県坂東市の逆井城(逆井氏のときの逆井城)落城の際、智御前もしくは智姫が鐘をかぶって城中の井戸へ身を投げたといい、この「鐘堀り池」はいまもある。また、東京祖師谷の釣鐘池は、近くの寺の僧が他の寺との争いの際に寺の鐘をかぶって池に身を投げたのだ、などとも伝わる。

「鐘をかぶって水に沈む」という点から見ればこれらは同様のモチーフだと言えなくもない。しかし、どれも「なぜ鐘をかぶるのか」がよく分からない。何かものすごく一般教養レベルの見落としがあるような(笑)。「あれじゃないの?」というのがありましたら是非ご教示下さい。

memo

底なし池の大蛇 2012.02.10

近畿地方:

関連伝承:

国分寺の鐘
香川県高松市国分寺町
高松市を流れる香東川の上流に百々淵のヌシの大蛇も、退治しようとする別子八郎との決戦の際、頭に鐘をかぶって登場する。
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