長もんの泊り

門部:日本の竜蛇:近畿:2012.01.26

場所:滋賀県愛知郡
収録されているシリーズ:
『日本伝説大系8』(みずうみ書房):「長もんの泊り」
タグ:祇園信仰と竜蛇/竜蛇と長者


伝説の場所
ロード:Googleマップ

祇園の神は牛頭天王ないし武塔天神であり、日本の神として素戔鳴命が同体とされ、当初よりわりと明確なイメージがあるように見えるが、一方でこの祇園の神は竜蛇の水神だとされていた節がある。ただし牛頭天王が竜体だなどという直接的な信仰があるというわけでもなく、周辺に残っているあれこれをあわせ考えてみるに、ということではある。しかし、そんな痕跡の中には、かなり直接的に祇園の神は蛇だと言っている伝説もある。

長もんの泊り:要約
昔、納屋留さんという宿屋に長もんが普通の旅人の風でやって来て泊った。その旅人は宿の主人の納屋留に、他の客の分まで自分が払うから、自分一人に宿を貸してくれ、という。納屋留はいつも三四人の客だからその分持ってくれたら、と言って貸す事にした。
すると旅人は、今度は大きいタライを貸してくれ、という。納屋留はうちには風呂もありますからと言ったが、旅人がくどく聞いてくれるな、と言うのでタライを貸す事にした。旅人はタライを借りると閉め切ってしまい、あとはしいんとするばかりだった。
あまりの静けさに気味の悪くなった納屋留は、そっとからかみを開けて、部屋をのぞいてみた。すると、旅人は長もんになって、蛇になってタライで行水をしているのだった。正体を見られた長もんは愛知川の祇園さんへ逃げた。それ以来、納屋留の宿はぱったりと商売が振るわなくなった。
長もんが逃げた先の愛知川の祇園さんは長もんだと言われ、雨がよく降るという。また、宿から逃げるときは、蛇は見えず、ずっと宿から煙だけが立って見えていたという。(『近江愛知川町の昔話』)

みずうみ書房『日本伝説大系8』より要約

今回、牛頭天王と竜蛇という話がぶれるので周辺類話をスルーしたのだけれど、愛知川流域の竜蛇伝承をあわせての考察されているサイトがあるので参照されたい。

「何かが川をやってくる」(webサイト「神社空間」)
現行ブログ「神社の世紀」

祇園神社
祇園神社
リファレンス:花火の日記画像使用

こちらによると愛知(えち)川の祇園さんとは、中山道・現国道8号線御幸橋のたもとの「祇園神社」だろうとのことだ(上地図のマーク位置)。他にはこの東、東近江市になるが、祇園町があり、八坂日吉神社が鎮座される。また、東北東円城寺の方にも八坂神社八坂神社が鎮座されるが、隣に「雨降野」の地名がある。引いた話に「雨がよく降るという」とあることを思うとこれは興味深い(ちょっと愛知川からは遠いが)。

話の方は、まず宿屋の盛衰のモチーフが目をひく。この他にも旅の途中の(人の姿の)竜蛇を泊めた際に「見るなの禁」が発生し、破った挙げ句身上が傾くという話は多い(「姉妹の蛇身」など参照)。思えば蘇民将来の伝説も同系の話ではある。

竜蛇のわたりへ人が接触する際にこのような盛衰のモチーフが語られる(「竜神のわたり」「沼神の手紙」など参照)。と言うよりもその盛衰を語るために竜蛇のわたりが想定されるのであるが。

さて、祇園信仰が竜蛇信仰とどう関係するのかというのはかなり壮大な話となるので稿を改める……というより現状まだ材料を集めている段階ではある。金毘羅神と同体であるとされたり(『本朝神社考』)、古く天神とされていたり(『日本紀略』)、瓜と蛇の関係が含まれたりとこれだけでも相当広い話であるのが分かるだろう。

さらに周辺結びつくものを見ていくと、牛鬼という淵の主の系統と河童の関係なども重要となる。牛頭天王というのはとかく「流される」ものなのだ。この「流される神」が牛鬼や河童の発生の根に深くかかわっているとあたしは思う。

いずれにしてもそのような祇園の神が「長もん」なのだとダイレクトに言っているこの伝説は大変貴重なお話なのだ。京の八坂と尾張の津島の二大天王のちょうど中間の土地で語られてきた「長もん」のことをよくよく覚えておきたい。

memo

長もんの泊り 2012.01.26

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